個人向け通信機器大手の米NETGEAR,Inc.は,従来,筐体の外部に突き出ていた数本のアンテナを,すべて内蔵した3×3 MIMO対応無線LANアクセス・ポイント製品を製品化した。この製品は,アンテナ素子に「メタマテリアル」と呼ばれる特殊な設計を世界で初めて採用している。

 アンテナの特性を動的に変える技術の応用も増えてきた。ソニーは2007年12月,チューナーやHDDプレーヤーなど映像再生機器の場所に縛られず,家庭内のどこでもHDTVテレビを視聴できるようにするための無線伝送装置「LF-W1HD」を発売した。LF-W1HDが採用したアンテナは,まるでレーダのアンテナのように電波の送受信方向を変え,最適な通信経路を探し出す機能を備えている。

 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)やNHK放送技術研究所もそれぞれ,家電製品の間で通信するためのアンテナや,放送用電波を受信する自動車アンテナを複数本にして,電波の送受信方向を細かく制御する技術を開発中である。

MIMOがアンテナの開発を加速

 アンテナ技術が本業ではない機器ベンダーやベンチャー企業が,野心的な新型アンテナの開発や採用を加速している背景には,携帯電話機や無線LANなどの無線機器が今後,MIMO技術を標準的に搭載していく状況がある。既にMIMOが事実上の標準となっている無線LAN機器に加えて,2009~2010年にサービス開始が予定されているモバイルWiMAXや次世代PHS,LTEといった通信技術もMIMOを採用すると決まっている(図1)。

†モバイルWiMAX=IEEE802.16eという無線仕様に基づく移動体通信のサービス規格。Intel社やKDDIなどが仕様策定を主導した。OFDMA(orthogonal frequency division multiple access)と呼ぶ多重化方式を用いる。日本ではKDDIが2009年2月に東京などで試験サービスを開始予定である。

†次世代PHS=現行のPHSサービスの伝送速度強化版の通信規格。最大データ伝送速度は100Mビット/秒。多元接続方式にはOFDMAを採用する。ウィルコムは2009年4月に試験サービスを開始予定。

†LTE=long term evolutionの略で,第3世代携帯電話(3G)規格のW-CDMAの後継になる無線通信規格。3.9Gなどとも呼ばれる。AT&T社やVerizon Wireless社が2010年中にサービスを開始すると発表している。

図1 「MIMOが前提」の時代はすぐそこに
モバイルWiMAX,次世代PHS,LTEといったいずれもMIMOを利用する無線方式の実用化が間近に迫っている。出遅れていたLTEも日米の通信事業者がスケジュールを前倒ししてきており,早ければ2010年中にもサービスが始まる可能性がある。