図1◎コンセプトカー「MITSUBISHI Concept-X」
図1◎コンセプトカー「MITSUBISHI Concept-X」
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図2◎車両運動統合制御技術「S-AWC」
図2◎車両運動統合制御技術「S-AWC」
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図3◎アクティブステアリングにハーモニックドライブを採用
図3◎アクティブステアリングにハーモニックドライブを採用
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 三菱自動車は,コンセプトカーである「MITSUBISHI Concept-X」(関連記事)に搭載した,4輪駆動をベースとする車両運動統合制御技術「S-AWC(Super All Wheel Control)」を公開した(図1,2)。後輪の左右の駆動力と,前後輪の差動制限力の制御に加えて,ブレーキとステアリング,サスペンションを制御対象とした。これにより,走る楽しさと安定性を両立することができる。例えば,「ドライバーにドリフトを許容しながら,クルマの姿勢の安定性を確保する」(同社の説明員)。

 後輪の左右の駆動力を制御する技術が「スーパーAYC(Active Yaw Control)」。クルマにかかる旋回方向と逆方向のヨーモーメントを制御し,加減速時でも定常走行時でも,旋回中に外側の車輪により多くの駆動力を配分できる。

 一方,前後輪の差動制限力を制御する技術は「ACD(Active Center Differential)」。センターデフの差動制限力を調整し,クルマの回頭性を保ちながら路面への駆動力を高める。直進時は差動制限力を上げて安定性を確保し,旋回時には差動制限力を下げて回頭性を向上させる。
 
 S-AWCは,既に市販車に搭載しているこれらの技術を組み合わせ,さらにブレーキの制御「アクティブブレーキコントロール」とステアリングの制御「アクティブステアリングシステム」,サスペンションの制御「ロールコントロールサスペンション」を加えた。また,これらを実現するために,ステアリングの角度やアクセルの開度,ブレーキの制動力,前後加速度,横加速度,ヨーレート,各輪の車輪速度を計測する各種センサを組み込んだ。なお,アクティブステアリングシステムには,トヨタ自動車の「レクサスGS」と同じくハーモニックドライブを採用した。

 これらの複数の制御を,1個のECU「S-AWC ECU」を使って統合的に行う。このECUは制御仕様(ロジック)と,センサとアクチュエータの入出力仕様を三菱自動車が開発し,基板回路の設計を電機メーカーに発注した。

 このS-AWCを搭載することにより,ドライバーは次のような効果が得られる。例えば,ドライバーがクルマを加速すると,通常なら車体の前方が浮き,後方が沈む。ところが,S-AWCではこの場合に,ダンパの油圧を制御し,バルブやオリフィスを絞って前輪側のダンパの減衰力を高めると同時に,バルブやオリフィスを開いて後輪側のダンパの減衰力は下げる。これにより,クルマは安定した姿勢を保つ。

 また,例えば,ドライバーが加減速しながらステアリングを切った場合,4輪の荷重配分が変化する。S-AWCでは,この変化に合わせて4輪のブレーキをそれぞれ制御し,安定して止まることはもちろん,ドリフトしながら旋回することもできる。ドリフトしながら旋回する場合は,内輪側のブレーキの制動力を大きくしてクルマの向きを変えやすくし,向きが変わりすぎると今度は外側のブレーキの制動力を高めて最適な車体角度を維持する。
 
 商品化については,「2007年をめどにこのシステムを部分的に採用する計画」(同社の説明員)。