健康・医療分野のビッグデータは、公衆衛生や医療評価、医療変革、創薬、医療政策など、その成果の活用範囲は非常に広く、期待も大きくなる一方だ。その実像はいかなるものなのか――。

 「国際モダンホスピタルショウ2015」(2015年7月15~17日、東京ビッグサイト)では、「健康・医療分野におけるビッグデータの活用」をテーマにしたカンファレンスが実施された。済生会熊本病院院長の副島秀久氏がクリニカルパスのバリアンス分析による医療の質向上について、弘前大学COI研究推進機構戦略統括の村下公一氏が健康ビッグデータ解析による疾患予兆発見プロジェクトについて、それぞれ講演した。

医療の質改善に向けデータ分析・可視化

 「医療ビッグデータの分析・可視化がここまで可能になった」と題した講演で副島氏は、クリニカルパスの定義を説明し、医療の質向上という最終目標を目指すプロセスにおいて、まずパス作成における標準化の重要性を強調した。「クリニカルパスは、習慣的な医療行為を再評価し,効率化、客観化、共有化して、医療の工程管理・PDCAサイクルによって、医療の質を管理する。そのベースとして、同じ言葉、同じ治療方針、同じ達成目標(アウトカム)によってパスを作成する必要がある」(副島氏)。

済生会熊本病院院長の副島秀久氏
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 アウトカムには、処置や検査、指導など従来、指示簿などに記される医療者アウトカム(タスク)と患者状態などを示す患者アウトカムがある。「従来、きちんと記述されていないか、主観的な表現でしか記述していないのが、患者アウトカム。この患者アウトカムの標準化をいかに実現するかが重要だった」(副島氏)とし、患者状態や生活動作/日常動作などを表現する際の構造化された言語マスターである「Basic Outcome Master」(BOM)を説明した。

 BOMは副島氏らが中心となって作成し、日本クリニカルパス学会が監修・発行しており、2015年8月にはVersion 2.1+がリリースされる。その基本的構造は、例えば患者状態(大分類)については循環状態や創部管理など(中分類)において、「循環動態が安定している」「創部に問題がない」といったアウトカム(302)があり、そのアウトカムの裏付けとなる観察項目(1511)が定義されている。「当初、302のアウトカムでは少なすぎるのではないかという意見があったが、実際に当院で使用されるアウトカムは100程度。それに観察項目を組み合わせることで、ほとんどの患者状態を表現できる」(副島氏)という。