病院がない地域の医療を「バーチャルホスピタル」で支える。こうした取り組みについて、静岡県立総合病院の医療連携管理監 地域医療ネットワークセンター・センター長である清水史郎氏が、「国際モダンホスピタルショウ2015」(2015年7月15~17日、東京ビッグサイト)で講演した。このセッションは、電子カルテや医療連携向けSOA基盤などを提供する京セラ丸善システムインテグレーションが設けたもの。

 清水氏は、2011年11月から、川根本町いやしの里診療所の所長も務めている。川根本町は静岡県中部に位置する自然豊かな山あいの町だ。主な産業は農業と観光業。「川根茶」の産地で、2014年からは「きかんしゃトーマス」デザインの蒸気機関車が運行しており、週末になると多くの観光客が訪れる。

「バーチャルホスピタルは作ることが目的ではない。町の医療に役立ててこそ」と語る清水史郎氏
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 一方で、人口は減少の一途をたどり、2000年代以降は1万人を切っている。高齢化率は2015年7月現在で45%と高く、生産年齢人口は50%を切っている。町には診療所が5つあるが病院がなく、訪問看護ステーションもない。医師や看護師の確保も難しい状況という。

 そこで町は、町内の診療所をバーチャルホスピタル化し、在宅をバーチャル病床とする構想を立てた。まず、静岡県が2010年に開始した病院・診療所の連携施策「ふじのくにねっと」に、いやしの里診療所が早期に参加し、県立総合病院のカルテを参照できるようにした。また、総合病院との間でビデオ会議システムを構築し、総合病院の循環器科と整形外科による遠隔診療・支援をいやしの里診療所で受けられるようになった。

 当初は紙カルテを事前に病院へ運ぶ必要があったが、その後、いやしの里診療所のカルテを電子化。同時に、患者IDを町の健康基本番号にひもづけて管理する「町内1患者1ID」制を導入した。高度医療機器を使った検査などは近隣の病院で受ける必要があるが、検査結果画像などは遠隔で見られるようになり、この段階で、「通常の診療とそん色のない遠隔診療が可能になった」(清水氏)。

 また、島田市民病院の皮膚科の医師による遠隔診療もスタート。2012年度には町内で200人の患者が遠隔診療を受け、以降も毎年同様の患者数で推移している。医療の充実、受診にかかる時間やコストの節約など、効果は大きいという。