「ICTによる調剤情報の利活用が薬の最善なリスク・ベネフィットバランスに寄与する」――。徳島文理大学 香川薬学部教授の飯原なおみ氏は、「第29回 日本医学会総会 2015 関西」の学術講演(2015年4月11~13日、国立京都国際会館など)において、「良薬は『調剤情報』利活用の仕組みが左右する」と題した講演でこのように説いた。

 飯原氏は冒頭、ナショナルレセプトデータを解析した結果から、高齢者の運転禁止薬・運転注意薬の成分併用状況と転倒による骨折発症の相関性を示した。それによると、処方された運転禁止薬および運転注意薬の成分数が多くなるに従い、転倒骨折の発症数が増加することを示唆する結果となった。「70~74歳の女性が、1カ月に20成分も運転禁止薬を使用していたという事実がわかった。医療機関、薬局ともフリーアクセスであるからこそ、薬の使用履歴を一元化し、重複投与や飲み合わせによる有害事象が起きないような社会を構築する必要がある」(飯原氏)と訴えた。

講演する飯原氏
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 一方で医療の現状は、医療機関は電子カルテなどにより情報共有の環境が整備され、薬局も薬履歴管理システムなど導入されているが、両者をつなぐのは紙の処方せんのみだと課題を指摘。「薬剤師は病名や検査結果も知らずに服薬指導しているのが現状。副作用が疑われても確かに判断できる材料を何も持ち合わせず、医師へ連絡するにも医師の繁忙さを思って気後れしてしまう状況だ」(飯原氏)。

 飯原氏らは、こうした課題解決に向け、2008~2010年度に文部科学省の戦略的大学連携支援事業、2011~2012年度には総務省の健康情報活用基盤構築事業として、医薬情報連携と電子お薬手帳を中心としたシステムを構築し、実証事業を行ってきた。その結果を踏まえ、「医師、薬剤師とも重複処方の防止が期待できると評価。また、薬剤師は医師とのコミュニケーション、服薬指導の質の向上が望めるという声が多く、いかに薬剤師が医師と連携して服薬指導の質を上げていきたいと考えているかがわかった」(飯原氏)と、ICTを活用した医薬情報連携の必要性を述べた。