発表資料の一部。上の図は、0.92eVのバンドギャップで太陽光の90%を利用できることを示す。下の図は、今回の太陽電池の素子構造と電荷分離の様子を示した図である。
発表資料の一部。上の図は、0.92eVのバンドギャップで太陽光の90%を利用できることを示す。下の図は、今回の太陽電池の素子構造と電荷分離の様子を示した図である。
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 大阪大学 産業科学研究所の研究者である江村修一氏らは、展示会「PVJapan2014」において、pn接合を用いない、新しい原理の太陽電池を提案した。理想的なケースでは変換効率70~80%を実現できる可能性があるとする。
 
 新しい原理とは、結晶中の極性、すなわち自発分極による内部電界の勾配を励起子(対になった電子とホール)の分離に用いるアイデアである。一般的な太陽電池の材料であるSiには極性はないが、化合物の結晶には強い極性が現れる材料が少なくない。江村氏によると、こうした材料では、その内部電界の勾配によって、光子を吸収して励起子ができると、電子とホールが自発的に別々の方向に分離することになるとする。具体的に想定しているのは、300nm~350nm厚のバンドギャップ0.92eVのInGaN層をInN層と電極で挟み込んだ素子構造の太陽電池である。

 一般的な太陽電池の場合、励起子を分離し、電子とホールを別々の電極に取り出す役割は、pn接合が果たしている。これに対して、内部電界の勾配だけで励起子を分離するメリットは、江村氏によるといくつかあるというが、最大のメリットは、電子とホールの再結合や熱緩和を低減できることだとする。

 例えば、一般的なSi系太陽電池は、光吸収率を高めるために光活性層が数十μmかそれ以上と厚い。この結果、短波長でエネルギーの高い光子は、多くがpn接合から遠いところでいわゆる“ホット励起子”となり、pn接合にたどり着いて電子とホールに分離する前に再結合や熱緩和で失われてしまう。

 従来の単接合型太陽電池は、バンドギャップより短波長側の光がこの熱緩和で失われ、一方で長波長側の光は透過してしまうことで有効利用できない課題があった。これが「Shockley-Queisser限界」と言われる、単接合型太陽電池の性能限界につながっている。

 一方、今回の太陽電池は光活性層に用いるInGaNは300nm~350nm厚。InGaNはSiとは違って直接遷移型で光吸収率が高く、「100nm厚程度で照射される光の1/2を吸収する」(江村氏)という。300nm厚なら大半の光を吸収することになる。キャリアの寿命に比べて電極への距離も短い。この結果、「ほとんどフォノン散乱がなく、熱緩和が起こらない」(江村氏)。つまり、「Shockley-Queisser限界」を決める、2つの大きな損失要因のうちの1つをなくせるという。

 赤外線など長波長の電磁波の透過損は残る。ただし、InGaNでInの組成を制御することでバンドギャップを0.92eVという低い値にすると、利用できない赤外線のエネルギー割合を太陽光全体の10%に抑えられるという。

 江村氏は、この10%と光反射などによる損失を考慮しても、全体の損失を20~30%にとどめることができるとする。言い替えると、理想的な条件では変換効率が70~80%の太陽電池を実現できるとする。

 ただし、現時点では開発は理論にとどまっている。「実際の素子の作製や評価はまだこれから」(江村氏)だ。