講演する尾坂氏
講演する尾坂氏
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 理化学研究所 創発分子機能研究グループ 上級研究員の尾坂格氏は、2014年7月10~11日開催のセミナー「有機エレクトロニクスの次の方向性を考える」(主催:日経エレクトロニクス)に登壇、有機薄膜太陽電池などへの応用を目指した、半導体ポリマーの開発について紹介した。講演タイトルは「分子設計による半導体ポリマーの高次構造制御」。

 一般に、有機薄膜太陽電池や有機トランジスタ向けの半導体材料としては、低分子の方がキャリア移動度に優れ、高いデバイス性能を引き出しやすい。実際、低分子有機半導体のキャリア移動度は、アモルファスSiよりも1桁高い10cm2/Vsに達している。

 対して、高分子の有機半導体(半導体ポリマー)のキャリア移動度は、現状では0.1~0.5cm2/Vs。薄膜太陽電池への応用においても、発電効率は5~7%と低い水準にある。そこで尾坂氏らのグループでは、半導体ポリマーで高いキャリア移動度や発電効率を実現することを目指してきた。半導体ポリマーの分子設計を改良し、それを実現しようという試みだ。

キャリア移動度を高め、配向も制御する

 半導体ポリマーのキャリア移動度を高めるための基本的な方針は、分子間相互作用を高めること。それには、縮環パイ電子系骨格を導入する方法が有効とされてきたが、実はキャリア移動度の向上には必ずしもつながらないことが分かってきたという。そこで尾坂氏らは、パイ電子系骨格を備えるナフトジチオフェン(NDT)と呼ぶ分子の4種類の異性体を作り分ける手法を開発。これを主鎖に利用した高分子(NDTポリマー)を合成し、キャリア移動度を調べた。この結果、主鎖形状が直線に近いNDTポリマーにおいて、0.8cm2 /Vsという比較的高いキャリア移動度が得られた。

 一方、薄膜太陽電池への応用を考えた場合には、光吸収波長を広げる必要がある。そこで、バンドギャップを狭められるDonor-Acceptor型のポリマーに着目し、その中でも電子欠損性骨格を持つ材料に注目した。これがナフトビスチアジアゾール(NTz)と呼ぶ分子である。NTzを骨格に持つポリマーを開発し、約8%という比較的高い発電効率を持つ有機薄膜太陽電池の作製に成功した。

 この他、アルキル基を導入したNDT(アルキル置換NDT)を備えたポリマーも合成。アルキル基を導入することで、ポリマーの配向がエッジオン(ポリマーを縦向きにして横方向に連ねて配置する)からフェイスオン(ポリマーを基板に対して横向きにして積み重ねる)に変わる現象を見いだした。フェイスオンでは、厚膜化しても高いキャリア移動度が得られるため、太陽電池への応用で有利という。