講演する長崎氏
講演する長崎氏
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 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構ゲノム解析部門の教授である長崎正朗氏は、2014年7月7日に開催された「医療ビッグデータ・サミット2014」(主催:日経デジタルヘルス)に登壇し、「東北メディカル・メガバンク」の取り組みについて講演した。

 東北メディカル・メガバンクは、東日本大震災の被災地住民の医療情報とゲノム情報を集積するプロジェクト。集めたデータを利用して、医療や予防を個人の体質などに合わせて最適化したり、医療情報を電子化して共有し、異なる医療機関でも同じ医療が受けられるようにしたりするものだ。創薬や医療情報産業の拠点形成によって、東北地方が再生・復興していくという波及効果も期待されている。

 現在、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo:Tohoku Medical Megabank Organization)は、以下の3つの調査に取り組んでいる。(1)特定健診に相乗りしてデータを集める地域住民コホート、(2)妊婦とその親、子どもを調査対象とする三世代コホート、(3)学齢期の子どもを対象とする地域子ども長期健康調査。いずれも健康な人を対象とする「前向きコホート」であり、遺伝要因や環境要因が複合的に影響して生じる疾病の原因解明や予防・治療の方法確立に役立つという。2014年7月時点で、地域住民コホートには約2万人、三世代コホートには約8000人が登録している。

 講演で長崎氏は、ゲノム解析を行うスーパーコンピュータなどの研究環境についても紹介した。2003年に完了したヒトゲノム計画は、人間1人のゲノム解析に500人以上の研究者が携わり、3000億円ものコストがかかっていたが、2014年6月現在のToMMoでは、シークエンスの取得に2日、解析に2日の合計4日で完了するまでになっているという。ToMMoは2014年3月から1万6480コア、高速ストレージ12.8Pバイト(50Pバイトまで拡張可能)のスーパーコンピューターを使っている。1検体当たりのディスク使用量は約1Tバイトで、現在までにディスク総容量の3割ほどを使用したという。

 ゲノム情報に関する情報セキュリティポリシーは高レベルで、ToMMoでは入室管理や端末ログイン、データ入出力などに生体認証を取り入れたり、情報アクセスをする区画には監視カメラを設置したりしているという。ゲノム情報は、物理的にセキュリティが担保された区画の、限定されたネットワークからしかアクセスできない領域に格納されている。しかし、海外では暗号化してクラウドに格納しているケースもあるという。長崎氏は、日本でも安全な保存、管理、解析のためのガイドラインの策定や技術の開発が望まれると語った。