講演する久永氏
講演する久永氏
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 デジタルカメラでは一般的となった、顔認識機能。この技術を、がんの診断支援に応用したのが富士フイルムだ。同社R&D 統括本部 メディカルシステム開発センター IT開発グループの久永隆治氏は、「医療ビッグデータ・サミット2014 ~ゲノム解析から予防医療、自動診断まで――ビッグデータがもたらす新産業~」(2014年7月7日、主催:日経デジタルヘルス)に登壇。同社が2012年に市場投入した、がんの類似症例検索システム「SYNAPSE Case Match」について講演した。

 SYNAPSE Case Matchは、X線CT画像の読影を行う際に、過去の症例データベースから病変の特徴が類似した症例を瞬時に検索し、似ている順に表示するシステムである(関連記事1同2)。富士フイルムが国内シェア首位を誇る医療用画像管理システム(PACS)「SYNAPSE」と、デジタルカメラなどに投入してきた顔認識技術などの画像処理技術「Image Intelligence」を融合して開発した。画像診断とは「医師が蓄積した知識とイメージ(画像)のマッチング作業であり、SYNAPSEとImage Intelligenceを組み合わせればこれと同じ作業を再現できると考えた」(久永氏)という。

 この開発では、画像データのデジタル化をいち早く進めてきた静岡がんセンターと協力した。現時点で、対応する疾患は肺の病変(肺がんなど)と肝臓の病変(肝臓がんなど)である。

 開発の動機は大きく二つあったという。一つは、医療機器の普及や高性能化に伴い、医師が読影しなければならない画像データが増える一方であること。この負荷を軽減するようなシステムを目指した。もう一つは、蓄積された画像データが有効活用されていないことだ。

診断の正答率が13ポイント向上

 SYNAPSE Case Matchでは、画像上の病変をクリックすると、その病変を抽出した上で「特徴量」を解析してその画像を定量化する。特徴量とは、例えば肺の病変であれば、その形状やサイズに加えて、存在位置、悪性腫瘍に特徴的な毛羽立ち(スピキュラ)、病変内部の空洞などの量を指す。

 実験では、SYNAPSE Case Matchによる支援を併用することで、CT画像を用いた診断精度(正答率)を13ポイント向上させることができた。専門医では80%が93%へ、研修医では72%から85%へそれぞれ改善したという。診断の確信度が増した症例は、専門医では33%、研修医では72%に達した。

 今後は、対象疾患を拡大するとともに、放射線科・外科・内科といった診療科ごとに情報を利活用できるようにしていく考え。また、クラウドを利用し、多くの症例数を集めにくい中小の医療機関でも今回のシステムを利用できる環境を整えていきたいという。