ディスプレイ分野最大の学会「SID」は、もともと展示会のウエートが高く、商談を目的に参加するVIPたちも多い。それにしても、「Oxide vs. LTPS TFTs I, II, III」というセッションタイトルは他の学会では付けないだろう。技術的な議論だけでなく応用面での議論が必須になるところが、実にSIDらしい。「Wearable Displays I, II, III」のセッションも最終製品のイメージが明確で、目標が定めやすくていいと思う。

 酸化物TFTの発表は、有機EL(OLED)と組み合わせたパネル試作の発表が多かったが、内容的には酸化物TFTの信頼性や性能の向上に重きを置いていた。逆に言えば、酸化物TFTの信頼性が有機ELパネルに十分使えるレベルまで向上してきたことの証でもある。

パナソニックが4K有機ELに採用した酸化物TFT技術

 パナソニックは「OLED TV」のセッションで、4K有機ELテレビに採用した酸化物TFTの信頼性向上技術を報告した(論文番号58.3)。最終日の最後の発表にもかかわらず、多くの聴衆が最後の質疑応答まで熱心に聴いていた。それでも満足しない技術者たちは、オーサーズインタビューで列を作って発表者に質問していた。ちなみに筆者もその一人である。

 パナソニックはまず、表示ムラの原因としてIGZOのターゲットピッチによるムラを挙げた。ターゲットからの距離によってGa不足の領域が存在し、他の領域と異なる特性になってしまう。これに対しては、スパッタリングプロセス中のイオン衝撃の方向を制御することによって解決したという。

 また、信頼性に関しては、下記の2つの対策で大幅に改善している。

(1)フロントチャネルへのNH3プラズマ処理によりNリッチのSiO界面を形成しPBTSを改善
(2)バックチャネルへのN2Oプラズマ処理によりVo(酸素欠乏)を抑制し、NBTSを改善

 非常に興味深い報告であった。なお、「アニール温度の最適化により信頼性向上を図っているか」という質問をしたところ、「もちろんアニール温度も重要なパラメータだが、上記プラズマ処理の方がより効果的だった」という。