「2014 Symposium on VLSI Circuits」のSession 7「Sensor Node Radios」では、無線センサーノード用トランシーバの低電力化に関する技術が報告された。“Trillion sensor universe”というキーワードが定着しつつあるが、その実現にはセンサーノードの低電力化、特に消費電力の大部分を占める無線インターフェースの大幅な電力削減が欠かせない。

 本セッションでは、変復調方式の工夫などによりトランシーバの消費電力を削減する技術を5つの研究機関が報告した。無線インターフェースではキャリアや各種タイミング信号を生成する必要があるが、消費電力が大きい高精度周波数シンセサイザを使わずにこれらの信号を生成する興味深い手法が数多く提案され、注目を集めた。

完全ワンチップのパッシブ無線タグが登場

 米University of California, Berkeleyと米Stanford Universityのグループは、ミリ波帯を利用したオンチップアンテナ搭載の完全ワンチップパッシブ無線タグを発表した(講演番号C7.1)。24GHz帯を用いてリーダーからタグへの無線給電およびダウンリンク通信を行い、60GHz帯を用いてタグからリーダーへのアップリンク通信を行う。

 無線給電に関しては、小型オンチップアンテナの開口面積と整流回路の効率のトレードオフを考慮して24GHz帯を採用した。アップリンクはパッシブ無線タグでよく使われるバックスキャッタ方式ではなく、ダウンリンクと異なる周波数帯で短パルス方式により行う。これにより、通信距離の伸張やデータレートの高速化、コリジョン防止、高精度な測距を可能にした。ダウンリンクにはPulse pause modulationを、アップリンクにはPulse position modulationをそれぞれ採用。ダウンリンク側で再生したクロックをもとにオンチップのクロックをキャリブレーションすることで、水晶発振器などの高精度参照クロックを不要としている。

 65nm世代CMOSプロセスで試作したチップは、送受のアンテナを含めたすべての機能を3.7mm×1.2mmサイズのチップに集積化している。リーダー側からの電力EIRP=45dBmにおいて、ダウンリンク6.5Mビット/秒、アップリンク12Mビット/秒、50cmの通信距離を実現した。これはノードの受信アンテナ端電力に換算して-10dBm程度に相当し、従来例よりも10dB以上小さい値である。

 米University of California, San Diegoのグループは、13.56MHz帯の誘導結合を用いたテレメトリー用トランシーバを提案した(講演番号C7.2)。多チャネルの生体信号計測用体内埋め込み型デバイスでは、高速なデータ通信が必要となる。データと電力を単一のコイルで伝送する方式では、LCタンクのQ値を高くすると給電効率は上がるが、通信帯域が狭くなるというトレードオフがあった。

 今回の提案では、アップリンクの変調方式は、受電LCタンクの両端を短絡するか否かでリーダー側のインダクターに発生する電圧を変化させる、一種の負荷変調を用いている。ただし、受電波形からコンパレーターで再生したクロックを基にPLLで位相調整した信号で、受電LCタンクの両端電圧が0Vになる瞬間に短絡スイッチのオン・オフ制御を行っている。また、短絡時はスイッチのオン抵抗およびインダクターの寄生抵抗がエネルギー損失の要因となるため、LCタンクのQ値を損なわずに高速な通信を可能とした。1次側および2次側のインダクタサイズがそれぞれ7cm、4.2cm、通信距離1cmにおいて、データレートはスイッチング周波数の半分となる6.78Mビット/秒を達成した。