燃費向上に直結するクルマの軽量化は、自動車業界にとって永遠の開発課題だ。実は、この取り組みに逆行している部品がある。車載ネットワークのデータ伝送に用いるワイヤーハーネスだ。クルマの電動化、電子化に伴い、重量が増加傾向にあるのだ。

 ワイヤーハーネスの重量は車両1台当たり数十kgにも達しており、クルマの軽量化を考えたときに無視できない存在になっている。ただ、金属線を用いている以上、軽くすることには限界がある。

 ハイブリッド車や電気自動車ではクルマに搭載する電子制御ユニット(ECU)の数が増えており、その間をつなぐために必要な通信線も増加している。加えて、動画データをやり取りする車内エンターテインメントの用途などでデータ通信の高速・大容量化への要求は強まるばかりだ。これを満たしながら重量を減らしていくことは、クルマの開発者にとって頭を悩ませる開発テーマである。

 この課題を解決する手法として関心を集める技術がある。東北大学 電気通信研究所の加藤修三教授の研究グループが開発した「電波ホース」と呼ばれる技術だ。

加藤教授は、ミリ波応用カンファレンスで講演した
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 電波ホースは、金属被覆した樹脂製の管(ホース)である。ワイヤーハーネスとの最も大きな違いは、その内部。データ通信用の金属線を用いず、中空のホース内で無線を飛ばす。無線通信に用いる電波はミリ波だ。ホースの両端にミリ波通信の無線機を設置し、ホースの中で数Gビット/秒のデータ伝送速度で通信できるようにする。

 4月23日に開催された「ミリ波応用カンファレンス」の「自動車のハーネスを無線化する『電波ホース』」と題した講演で、加藤教授は「ハーネスの重量を金属線を用いる現行方式の1/10にできる」と話した。加えて、ハーネス切断時などにワイヤーハーネスよりも高い信頼性でデータ伝送できる可能性を秘めているという。

 電波ホースでは、ホース内の空間という閉じた系でミリ波によるデータ通信を実現する。このため、自由空間に比べて小さい伝送損失で済む。例えば、長さ4mのホースで60GHz帯を通信に用いた場合の伝送損失は39.4dBと、自由空間よりも40.6dB小さい。(電波ホースの技術を詳細に解説した論文「無線でECUを結ぶ、軽量・高信頼な電波ホース」はこちら