日本の医療機器の輸出入比率は、約6000億円の輸入超過の状態が続いている。つまり、貿易赤字の状態である。

 詳しく見ると、内実は二極化している。日本メーカーの市場シェアが高いCT装置や超音波診断装置のような診断装置は輸出超過だが、治療に使う機器(治療機器)は輸入超過である。特に血管用ステントや人工関節のような生体内で使用する治療機器は、外資系企業の独壇場なのだ。

 実は、過去5年で新たに認可を得た医療機器のうち、診断機器は数件に過ぎず、9割以上は治療機器。日本発の新しい医療機器は少ない。政府は「アベノミクス」の成長戦略として医療関連産業の活性化を掲げるものの、革新的な医療機器の登場にはほど遠い実情がある。

 国内で治療機器の技術革新が起きない背景には、産業構造上の問題がある。こう指摘するのは、東北大学病院 臨床研究推進センター 特任教授の池田浩治氏だ。2014年3月18日開催の「デジタルヘルス・サミット」(主催:日経デジタルヘルス)の「隣の芝生は青いのか? ―― 医療機器産業への参入における留意点」と題した講演で、「日本の治験は、海外の何倍も資金が掛かる。それは、医薬品が治験産業を育てたからだ」と指摘した。

池田浩治氏(東北大学病院 臨床試験推進センター 開発推進部門 部門長 特任教授)の講演の様子。「デジタルヘルス・サミット~デジタルヘルスの未来2014~」から。
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医療機器の革新には、アイデアと資金と、売り手が必須

 医薬品は巨額の投資をしても、長いスパンで回収できる。だが、医療機器は3~5年で新しい機器に置き換わる。治験に資金を投じても、回収できない可能性がある。医薬品に合わせた承認プロセスが治験に掛かる投資額を膨らませ、治療機器の開発のハードルを上げている。加えて、治療機器は、製造者としてのリスクも高い。医師側から開発を依頼しても、「うちでは、ちょっと…」と尻込みする医療機器メーカーが多いという。

 「医療機器で革新を起こすには、現場で生まれるアイデアと資金、そして売り手(メーカー)が不可欠。当たり前に聞こえるが、売り手として手を挙げる企業がなかなかいないという現実がある」(池田氏)。

 政府は薬事法の改正で「迅速な承認」を実現する審査の簡略化などを目指している。ただ、池田氏は、制度の変更だけでは革新的な医療機器は生まれないと見ている。審査の迅速化は、あくまでメーカーの手間を省く、メーカー視点の制度改正で、実際に使える機器を開発するために医療現場でのアイデアが不可欠であることに変わりはないからだ。

 米国では、大学の臨床現場から出てきたアイデアで機器を開発するチームやベンチャー企業を大手企業が買収する。それが最もうまくいく成功パターンで、臨床現場のアイデアを吸い上げる取り組みが成否のカギなのだという。

 池田氏は、医療現場や機器メーカーなどを集めたブレーンストーミングはアイデアを獲得する上で有効な手段だと紹介した。東北大学で実際に医療機器開発のために開催している手法だ。「興味があったら、ぜひ連絡してほしい」と同氏は呼び掛けた。