講演する産業技術総合研究所の片岡氏
講演する産業技術総合研究所の片岡氏
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 世界の年間感染者数2億人、66万人の命を奪っているマラリア。ハマダラ蚊を媒介昆虫として、人の赤血球にマラリア原虫が寄生することで発熱や貧血などを引き起こす。

 その診断に使う細胞チップを開発しているのが、産業技術総合研究所 健康工学研究部門 バイオマーカー解析研究グループの片岡正俊氏だ。同氏は、2014年2月21日に開催された「Trillion Sensors Summit Japan 2014」の「2億人を救おう、マラリアの迅速検知法を実用へ」と題した講演で、細胞チップの開発の動向を明らかにし
た。

迅速な診断を可能にする高感度で操作しやすい診断デバイス

 現在、マラリアの診断で一般的な手法は、例えば、染色した赤血球を光学顕微鏡で観察するものだ。熟練した高度な観察技術が必要で検出感度0.01%ほど。感染した赤血球を1万個に1個見つける程度の水準で、診断にも40分ほどかかっていた。

 精度の高い診断法では、PCR法という手法を用いる専用装置を使った長時間の検査が必要になる。一方、簡易型の検査技術では検査感度は光学顕微鏡による診断と同程度であるものの、誤って陽性と判断してしまう可能性があった。診断の確定に時間や手間が掛かる現状では、誤った治療薬の投与が薬剤耐性マラリアの蔓延につながっているとの指摘もあるという。

 このため、迅速な診断には、高感度で操作がしやすい診断デバイス求められている。そこで片岡氏が開発している技術が、細胞チップを用いた診断手法だ。片岡氏が開発を進める細胞チップの特徴は、PCR法による診断よりもひと桁高い検出感度で、かつ15分ほどと短い時間で診断結果が出ることである。

 具体的には、ポリスチレンチップに直径105μm、深さ50μmの微細な穴(マイクロチャンバー)を2万944個作製する。各マイクロチャンバーに、それぞれ130個ずつの赤血球を単層で並べられる技術が産総研独自の特徴的な技術だという。チップ表面の処理や、マイクロチャンバーの形状の工夫で実現している。

 細胞チップの各マイクロチャンバーに並べる血液には、マラリア原虫の核だけが染色される蛍光染色液を混ぜ合わせる。細胞チップを専用検出装置などで読み取り、マラリア原虫を探し出す仕組みである。これにより、マイクロチャンバーの位置が分かれば、発見したマラリア原虫を取り出し、種を同定することも容易になる。

 現在、企業と組んで血液から赤血球だけを簡単に分離する「赤血球分離フィルター」や、蛍光反応を検出する専用検出装置の開発を進めている。試作した細胞チップと検出装置の実証実験をエチオピアやウガンダなどアフリカの国々の研究機関や病院などと共同で進めている。片岡氏は「2年後に商品化したい」と話した。