気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)議長のRajendra Pachauri氏による講演の後編。同氏は、地球温暖化の現状と予測、対策コストへの考え方などに触れつつ、その緩和策としての再生可能エネルギーへの期待を寄せる。(構成は、高野 敦=日経テクノロジーオンライン)

気候変動の影響と対策

 では、気候変動の問題に移ります。気候変動は、我々がこれから使うエネルギーを決めるに当たり、非常に重要なポイントになります。エネルギーの供給や消費について、これから20年、30年先の未来を変えていくのであれば、今から行動を起こし、政策を策定していく必要があります。

温室効果ガス濃度が上昇

 最近、IPCCの第1作業部会(WG1)が気候変動の新たな報告書(IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書)を公表しました。我々は2013年にスウェーデンのストックホルムでこの報告書に基づいて気候変動に関する自然科学的根拠を提示しましたが、その一部をここで紹介します。

 温室効果ガスの濃度が高まったことで地球にとどまる熱量が増えていますが、その熱量を海が吸収しています。それによって、水深700mぐらいの場所まで暖かくなっています。これは、1971年からずっと続いていて、海洋生物に大きなインパクトを与えていますが、あまり広く知られていません。これまで何十億年も変わらずにいたことが、わずかな期間に大きく変えられようとしています。

海が吸収している熱量(上)と海面レベル(下)の推移
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 海面上昇も、19世紀半ば以降、加速度的に進行しています。1901年から2010年までに、グローバルな海面レベルの平均値は19cmも上昇したといわれています。それ以前の2000年よりもずっと速いレートで海面レベルが上昇しているわけです。小島嶼国や沿岸地域に住む人々にとって、大きな問題になります。

 気候の温暖化は、不可逆な現象であることが分かっています。ここ30年で、地球の表面はどんどん暖かくなっている。しかも、そのスピードがどんどん速くなっているという状況で我々は生きているわけです。

 さらに残念なことに、温室効果ガスの濃度もどんどん高まっています。2013年5月には、米国・ハワイのマウナロア山で二酸化炭素(CO2)の濃度が400ppmを超えたことが明らかになりました。産業革命以前は250ppmだったのがここまで高まっているのです。

大気中のCO2濃度の推移
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 グリーンランドや南極の氷床、北極海の氷や積雪量などもどんどん減ってきています。1970年代前半以来、氷河の質量が減り、海水が熱膨張したことによって、海面上昇が引き起こされました。実際、北極の夏季における氷の量は毎年急速に減少しています。我々は、今世紀の半ば頃までには、9月(北極海で氷が最も少なくなる時期)になると北極海で氷が完全になくなるのではないかと予測しています。それによって、自然の状況が大きく変わります。今までにないような大きな変化が起こり得ます。

夏期の北極海における氷河の量(下)
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 海面におけるCO2濃度の上昇や、海の酸性化も進んでいます。これらが海洋生物にどのようなインパクトを与えているかについては、まだ十分な研究が行われていません。しかし、そのインパクトが重大であることは分かってきています。

海面におけるCO2濃度と酸性度の推移
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