10月23~25日にパシフィコ横浜で開催されたディスプレイの展示会「FPD International 2013」を、この分野に詳しい技術者に見学、報告してもらった。以降では、有機ELディスプレイをはじめとするフラットパネル・ディスプレイ(FPD)の第一線の技術者として著名な、NLTテクノロジーの松枝洋二郎氏のレポートを紹介する。(田中 直樹=日経エレクトロニクス)

 数年前に比べて海外FPDメーカーの展示が減ってしまい、規模的にはやや物足りない感じがする展示会「FPD International」だが、今年(2013年)は世界初をうたうFPD技術の意欲的な展示が多数あり、参加して非常に面白かった。

85型の8K裸眼ディスプレイが目を引く

 まず目を引いたのが85型の8K裸眼ディスプレイ・システムである。3次元(3D)光学システムはオランダRoyal Philips社の日本法人であるフィリップス エレクトロニクス ジャパンが開発し、シャープが8K液晶パネルを開発、米Dolby Laboratories社が専用コンテンツを提供している。さすがにこのサイズでの裸眼3Dはインパクトがある。若干画像が歪んで見えるのが惜しいのだが、鮮明で迫力ある映像を楽しめた。

85型 8K裸眼
FPD International 2013 アワード 特別賞を受賞した85型 8K裸眼ディスプレイ

 従来のレンチキュラ・レンズとは異なる、「フラクショナル・レンズ」という新しい光学系を用いることで、裸眼3Dが見える領域を広げながら解像度の低下を抑えられたという。従来の裸眼3Dシステムでは、例えば8視点(3Dで見える推奨位置が8カ所)の場合には3D表示の解像度がパネルの総画素数(2D表示)の1/8になってしまう。しかも、立体視できる推奨位置とその隣の推奨位置の中間部では両眼視差が逆転して、画質が劣化する場合が多かった。

 フィリップスの説明では、今回の方式だと3D表示の解像度は理論的には総画素数の1/4程度になるとのことだが、そこまでではなくても十分な解像度は確保できていると思う。推奨位置と隣の推奨位置の中間の部分での画質劣化が非常に少ないのには感心した。28点からの視差を利用している(28視点に相当する)とのことで、これならデジタル・サイネージとして使っても、通り過ぎながら違和感なく3D画像を楽しめそうである。ただし、3Dで楽しめる前後の位置は限られるので、通路などをうまく利用する必要があるだろう。

 シャープ製の8Kパネルはコントラストも高く、色再現も良好であった。個人的にはこのパネル単体の2D表示で8Kコンテンツをじっくり見てみたい気もするのだが、8Kコンテンツが簡単には手に入らない現在の状況では、8Kパネルで4Kの3Dコンテンツを楽しむという選択肢もいいのではないだろうか。