「2013 Symposium on VLSI Circuits」のSession 24「Millimeter Wave Transceivers and Systems」では、ミリ波、サブテラヘルツ波の分野でフェーズドアレイ技術を用いた低電力トランシーバ回路技術の報告が相次いだ。フェーズドアレイ技術で必須の位相シフトを、デジタル・ベースバンドで行う方式とアナログRF領域で行う方式で研究機関ごとにアプローチが異なり、それぞれの利害得失が論じられるなど興味を惹く内容であった。また、現状、サイズが大きく高価格の車載レーダー・モジュールのサイズ、コストを大幅に削減するための試みとして、アレイ・アンテナをパッケージに集積化した小型モジュールの発表もあり注目を集めた。いずれもCMOSプロセスで製造されたトランシーバである。

 講演番号C24-1では、台湾National Taiwan Universityのグループから、77GHz帯の車載フェーズドアレイ・レーダー用の1TX/4RXトランシーバ・システムの報告があった。受信機が4エレメントのフェーズドアレイ方式に対応している。受信機で位相シフトを行う方法として、受信RF経路で行う方法、LO信号の位相をシフトする方法、周波数変換されたIF信号で行う方式がある。RF経路で行うと信号のロスが問題となり感度が低下し、LOの位相シフトは複雑な回路が必要となり、またLO信号分配時の干渉が問題となる。そこで同グループはダウンコンバートされたIF信号をデジタル変換してDSPで受信信号の到来方向を検出する方式を用いた。デジタルドメインでの処理は、検出角度の算出精度を向上する上でも有利である。送信機では、パワーアンプの入力信号電力に応じて適応的にバイアス点を変えることで電力削減を図っている。65nm世代CMOS技術で試作されたRFトランシーバ・チップのサイズは2.1mm×1.6mmと小さく、アレイ・アンテナを集積したパッケージのサイズも4cm×2.5cmと小さい。出力信号電力が+9dBmにおいて、消費電力は360mWである(ただし、ADC、DSPの電力を除く)。レーダーの最大レンジは100mであり、±8°の範囲で信号到来角度の検出分解能は0.6°である。

 講演番号C24-2では、中国のHong Kong UniversityおよびFudan Universityのグループから、高速通信用の60GHz帯の4エレメントのフェーズドアレイ受信機に関する発表があった。45GHzのLO信号で受信RF信号を15GHzのIF信号に変換後、さらに15GHzのLO信号でベースバンドのI/Q直交信号に変換する。位相シフトは15GHzのLO信号に対してかけ、さらに45GHzに3逓倍した後、第1ミキサーに供給している。二つのエレメントのIF信号を加算したのち、第2ミキサーでダウンコンバートすることで、IF帯以降のブロックを共有している。IFステージでエレメント間の利得、位相のミスマッチの補正を行うことで、利得誤差、位相誤差をそれぞれ±1.1dB、±0.6°以内に抑えた。65nm世代CMOSプロセスによる試作チップのサイズは1.3mm×2.0mmでNFは6.5dB、消費電流はトータルで320mWである。オンチップ・トランスやインダクタが多用されており、質疑応答ではチャネル間の相互干渉や、ダミーメタル・パターンを配した場合の影響に対する懸念が指摘されていた。

 講演番号C24-3では、米Texas Instruments社から160GHz帯の近距離レーダー用4エレメントのフェーズアレイ送信機の報告がなされた。100MHzの参照クロックをもとに、PLLで40GHzのLO信号を生成した後、位相シフトをかけ4系統のLO信号を生成する。それぞれの40GHz LO信号を4逓倍して160GHzのLO信号を生成してパワーアンプでアンテナに信号を供給する。パワーアンプのオン・オフ制御により包絡線の幅が100ps~200psのパルスを生成することができる。65nm世代CMOSプロセスで製造されたチップのサイズは5mm×4mmで、アレイ・アンテナが集積されたパッケージのサイズもわずか10mm×10mmである。連続波で+14.5dBmの信号を出力した場合の消費電力は1.4Wである。