ディスプレイの先端技術を発表する国際会議「SID」では、ここ数年、将来の主役を目指す“有機EL”や“酸化物半導体”などの技術に注目が集まっている。これらについて議論するセッションには多くの聴衆が集まり、その技術も着実に進歩している。その陰で、これまでディスプレイの産業を引っ張ってきた“液晶”においても、地味な扱いではあるが、まだまだ多くの重要な発表がある。毎年続けてSIDに参加して会場内外での生の議論を聞いていると、この両者に対する見方が年々変化していることを感じる。有機ELや酸化物半導体のような新技術に対しては、これまでのような漠然とした期待ではなく、市場への早期の応用を望む声である。その背景には、既存技術である液晶の絶え間ない進化を目の当たりにして、新技術の出番が遠のいていく危機感が増していることにある。

発表件数から見る変化――継続する「酸化物半導体+有機EL」と増加した「a-Si/LTPS+液晶」

 図1に、バックプレーンTFT(駆動基板)とフロントプレーン(表示体)の組み合わせで発表された、今年(2013年)の論文をまとめた。著者は、毎年継続的にこの表を作って、その年の特徴や前縁からの変化を眺めている。今年も、継続的な進歩と共に大きな変化が見て取れる。

 継続的な進歩としては、期待されている「酸化物半導体+有機EL」の分野での着実な進捗である。発表件数は昨年並みであるが、一つの目標製品としている有機ELテレビも着実に大画面のものが試作されている。今年は、韓国LG Display社の55型や台湾AU Optronics(AUO)社の65型も登場した。

 大きな変化の一つは、液晶に関する発表が大きく増加していることである。昨年はわずか4件であったが、今年は一気に4倍に増加した。その中身は、IPS液晶に関するものが多い。この背景には、モバイル用途ではIPSがメインの技術になったことと共に、液晶技術の進化がまだ続いていることがある。さらに、酸化物半導体をバックプレーンに使ったものもある。

 変化の二つめは、中国からの口頭発表が出て来たことである。昨年までは、ポスターで数件の発表を散見する程度であった。しかし今年は、中国China Star Optoelectronics Technology社(CSOT:華星光電)の110型4K×2Kの招待講演や中国BOE Technology Group社(京東方)の酸化物半導体を使った65型4K×2Kなど数件の口頭発表があり、聴講者の中にも中国からの参加者が多く見受けられた。

図1 継続的な「酸化物半導体+有機EL」開発と、さらなる高性能化を目指す「液晶」
SID 2013の口頭発表内容を整理した。TFT単体、材料単体の発表は除く。Siベースのマイクロディスプレイは除く。著者が作成。
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