図1 LSIに形成したMOSFETの雑音の周波数特性と、これまでの計測手法。(図:筑波大学)
図1 LSIに形成したMOSFETの雑音の周波数特性と、これまでの計測手法。(図:筑波大学)
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図2 LNAをIC化し(右)、雑音測定用プローブに実装した(左)。(図:筑波大学)
図2 LNAをIC化し(右)、雑音測定用プローブに実装した(左)。(図:筑波大学)
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図3 開発した雑音プローブによる計測結果。約800MHzまでの雑音計測が可能だった。(図:筑波大学)
図3 開発した雑音プローブによる計測結果。約800MHzまでの雑音計測が可能だった。(図:筑波大学)
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 筑波大学 数理物質系 准教授の大毛利健治氏らの研究グループは、LSIに形成したトランジスタ(MOSFET)の雑音を広い周波数域にわたって簡便に計測する技術を開発し、「2013 Symposia on VLSI Technology and Circuits」(2013年6月11~14日、京都市)で発表した(講演番号:JJ1-7)。

 筑波大学、ディー・クルー・テクノロジーズ、東京工業大学が、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受けて実施したもの。これまで計測が難しかった周波数域の雑音特性を詳しく把握できるようになり、それを半導体製造プロセスやLSI設計の改善に生かせる。

 ここでいうMOSFETの「雑音」は、一定時間内に流れるドレイン電流量の揺らぎに起因する、時間的な揺らぎのこと。その雑音の計測手法は、大きく二つに分けられる。(1)被測定素子に直流電圧を印加して、流れるドレイン電流を計測する「直流方式」、(2)被測定素子に交流信号を入力して、信号のS/Nの劣化を計測する「交流方式」、である。一般に直流方式は数百kHzまでの低周波雑音、交流方式は1GHz以上の高周波雑音しか計測できず、数百k~1GHzの周波数域の雑音を測定する適切な手法がなかった。

 MOSFETの雑音は、低周波域では1/f雑音、高周波域では白色雑音の形で現れる。前者は絶縁膜トラップでの電子の捕獲・放出に起因する雑音が中心である。後者は熱雑音やショット雑音が支配的である。これまでの雑音計測手法では1/f雑音と白色雑音が交差する周波数(コーナー周波数)の領域を計測できないため、コーナー周波数を推定するしかなかったという(図1)。

 大毛利氏らの研究グループは2012年のVLSI Symposiaにおいて、低雑音増幅器(LNA)を搭載した雑音プローブを開発し、直流方式で150MHzまでの範囲の雑音を計測したことを発表していた。計測対象となるMOSFETからLNAまでの距離をなるべく短く(10mm以内)にしたことが貢献した。

 同グループは今回、130nm世代のバイポーラCMOS技術を用いて、広い周波数域に対応するLNAをIC化した(図2)。入力バイアス制御部や出力バッファと合わせたICにしている。このICを実装したプローブを用いることで、直流方式で約800MHzまでの範囲の雑音を計測できることを確認した。測定限界雑音レベルは10-11以下だった(図3)。

 併せて、計測対象となるMOSFETを内蔵したICも作製した。MOSFETとLNAの距離が約200μmであるこのICを利用した場合、100k~3GHzまでの広範囲にわたって雑音を計測できることを確認した「直流方式で雑音を3GHzまで測定できたのは初めて」(大毛利氏)。