「2013 Symposium on VLSI Circuits」のSession 11「Low Power Wireless」では、ソフトウエア無線およびセンサ・ネットワーク用無線等のトランシーバ回路に関して、消費電力を大幅に削減する技術が発表された。前半の2件は、ソフトウエア無線、マルチスタンダード無線に関するもので、近年注目を集めている技術をベースに完成度を高めた内容となっている。後半の2件は、無線センサ・ノード用でも特に極低電力での動作を目指したトランシーバに関するユニークな技術を提案するものであった。

 講演番号C11-1では、ベルギーIMECとルネサス エレクトロニクスの共同グループから、28nm世代CMOSプロセスで設計された0.9Vで動作するソフトウエア無線用受信器が報告された。0.4G~6GHzのキャリア周波数、100MHzまでの信号帯域に対応する。0.4G~3GHzの低域側では、抵抗帰還によるインバータ型のLNAおよび8相LO信号を用いたハーモニック・リジェクション・ミキサを用いており、LO周波数の3次および5次高調波の応答を抑えている。高調波の応答が問題とならない3G~6GHzの高域側では、インダクタ負荷型のゲート接地LNAと通常の4相LO信号(差動I/Q)を用いたミキサを用いている。個々の技術は既に知られているが、補正技術を導入するなどして完成度を高め、素子バラツキの影響の大きな28nm世代という最先端プロセスの使用を可能とした。3次、5次の高調波除去比はそれぞれ70dB、55dB以上と非常に高く、IIP3、IIP2は+3dBm、+85dBm、NFは3dB以下を達成している。面積は0.6mm2、消費費電力は40mW以下であり、従来例に比べてほぼ半減している。

 C11-2では、米Texas Instruments社と米NVIDIA社の共同グループから、デジタルPLLを用いたマルチスタンダード・トランシーバの発表があった。2.4GHz-ISM帯のIEEE802.15.4、Bluetooth Low-Energyおよび独自規格の5Mbpsの通信に対応している。デジタルPLLは、無線通信用としては同社が10年程前に世界に先駆けて実用化して以来、さまざまな機関で研究開発が進められているが、無線センサ・ネットワーク用規格に対応できるほどの低電力化は成されていなかった。TDC動作にLOの立ち上がり/立ち下がり両エッジを使うことで、低電力の差異クリック型TDCの利用を可能とした。65nm世代CMOSプロセスで製造されたチップは、送信機が9.5mW、受信機が8.06mW(内デジタルPLLは3.96mW)で動作する。

 C11-3では、NTTマイクロシステムインテグレーション研究所から小型センサ・ノード用のOOK変調方式を用いた300MHz帯の極低電力送信機の提案があった。センサ・ノードのサイズを小さくするにはアンテナ・サイズも小さくする必要があるが、例えば微小ダイポールを用いると放射抵抗が著しく低くなり、単純なインバータ型のアンプでは効率を上げることができない。同研究所は、ソースフォロワを基本として、さらに容量素子による電圧帰還をかけることで効率を改善する手法を提案した。1/10波長程度のダイポール・アンテナを用いた場合に、インバータ型のアンプに対して6倍程度の効率改善を達成している。0.18μm世代CMOSプロセスで試作した送信機チップに加え、太陽電池、振動センサ等を実装した5mm角のモジュールを実現した。1/20波長ダイポール・アンテナを接続した場合に、10mの通信距離を確保するための送信エネルギー効率として625pJ/ビットを達成した。