ここ数年、Design Automation Conference(DAC)では、IC設計のプロジェクト・マネージャをターゲットにしたセッション「Management Day」が開催されている(例えば、Tech-On!関連記事)。このセッションでは、プロジェクト・マネージャとして考えておくべきことや、判断のポイントなどに関して議論を行っている。

 今年の50th Design Automation Conference(DAC 2013)では、6月4日火曜日にManagement Dayがあり、午前と午後に1セッションずつが行われた。そのうち午後の「Decision Making for Complex ICs」を聴講した。講演者は4人で、韓国Samsung Electronics社のKee Sup Kim氏(Vice President, Design Technology)、米LSI社のJ.C. Parker氏(Engineering Director Design Tools & Methodology)、米IBM社のRex Berridge氏(Microprocessor Design & Automation Manager)、米GLOBALFOUNDRIES社のBob Madge氏(Director Design Enabled Manufacturing)である。

プロジェクト単位のライセンス形態を望む

図1●Samsungのスライド
図1●Samsungのスライド
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 最初に登壇したSamsungのKim氏は、設計フロー、EDAのライセンス、そして気合と根性の観点から、設計に関する決断について語った(図1)。まず、Samsungの最新の14nmプロセス「14LPE」の回路ライブラリ「78CPP」を採り上げた。78CPPはセル単体では1世代前の90CPPより面積は削減するものの、性能が多少低下し、ダイナミック・パワーも増加するという。

 しかし、適切なPPA(電力性能解析)を行うことでSOCレベルだと逆に性能が向上し、ダイナミック・パワーも減少する。また、プロセスを考慮した設計により、ファースト・シリコンではアシスト機構や電源ラインを2重化する(Dual Power Rail)必要があったが、量産ではアシスト機構が不要になり、電源ラインの2重化も不要になった(Single Power Rail)。同氏はこの性能と歩留りが向上した具体例を見せることで、これからの設計では上流から下流までの一貫したケアが重要だと説明した。

 続いて、設計ツールに関する話である。自ら作るか、市場で購入するか、すなわち「Make or Buy」の決断が必要だとした。Makeの場合はツールの改造が簡単であり、ライセンス数を気にしないでも大丈夫といった特徴を挙げた。一方、Buyの場合は世界中の経験知識を利用でき、品質は高いが、ライセンスの管理が必要だとした。その上で、ツールを期間と本数による課金ではなく、対象のプロジェクト中は本数無制限といった課金体系が必要だと提案した。もちろん、ツール・ベンダの改良のためのモティベーションが下がってはいけないので、現在より多少の増額は認めた上での提案だ。

 最後の話題は、気合と根性である。2008年の北京オリンピックにおける競泳の400メートル自由形リレーでの米国のJason Lezak選手を引き合いに出して、組織を鼓舞する必要性を述べた。Lezak選手は当時32歳で最後のオリンピックだった。彼はチームを鼓舞してまとめ上げた上に、自身の気合と根性を見せた。アンカーのLezak選手に交代した時点で米国はフランスに次ぐ2位だった。対抗するフランスの泳者は当時の世界記録保持者のAlain Bernard選手である。Lezak選手は根性を出して、残り25mでBernard選手を抜き去り、世界記録と金メダルを獲得した。この話を熱っぽく語った。

 Samsungでは、20nmノードのDRC(design rule checking)/LVS(layout versus schematics)で重大な問題が発生したが、金メダル選手なみのパフォーマンスでチーム全員が対応し、0Weekで対応を完了したという。強いモティベーションを持った設計者が力を合わせると大きな力を発揮できるという。