「我々のプロセサ・コアは、モバイル機器での性能において米Intel社のプロセサ・コアの1世代以上先を行っている。その差は今後さらに広がるだろう」(英ARM社 VP Marketing & Strategy, Processor DivisionのNoel Hurley氏)――。ARM社は「COMPUTEX TAIPEI 2013」(2013年6月4~8日、台湾・台北市)の期間中に開催した新プロセサ・コア「Cortex-A12」の発表会の場で、Intel社への対抗意識を隠そうとしなかった。
報道陣とのQ&Aセッションに登壇したHurley氏は、ARMコアとIntel社のAtomプロセサのコアの性能を比較したスライドを示し、ARMコアの優位性を強調した。「Silvermont」コアを搭載した22nm版Atomが近く登場しても、その優位性は揺らがないとする。ARM社の自信の根拠を、同社Executive Vice President, Commercial and Global DevelopmentのAntonio J. Viana氏とLead Mobile StrategistのJames Bruce氏に聞いた(両氏に個別に行ったインタビューを基に再構成した)。
─Intel社がAtomの微細化を急ピッチで進め、ARMコアの牙城だったモバイル分野に攻勢をかけている。ARM社は自社の優位性は揺らがないと主張しているが、その根拠はどこにあるのか。
Viana氏 Intel社に対する我々の最大の強みは、パートナー企業と巨大なエコシステムを築いていることだ。このことが、速いペースでの技術革新を可能にしている。Intel社は確かに、我々に比べてはるかに巨大な企業であり、資金力に長け、有能なエンジニアも豊富に抱えている。だが、膨大なリソースを要する技術開発に単独で挑み続けることは、同社でさえ苦しくなりつつあるのではないか。
そもそも、ここ数年でスマートフォンやタブレット端末の市場が急速に立ち上がったのは、これらの端末がもっぱらARMコアを採用していたからだ。ARMコアの巨大なエコシステムの力を生かして、さまざまな新技術がモバイル分野で実を結んだ。もしこの分野が、Intel社が覇権を握っていた従来型パソコンと同じような構図の業界だったら、こんなに早く市場が立ち上がることはなかっただろう。
Intel社がSilvermontコアを投入しても、ARMコアとは性能面でまだ開きがある。同社はSilvermontコアの性能をしばしば「Cortex-A9」と比較しているが、Cortex-A9は我々が市場投入してから3年も経っている製品。製造技術も45nm世代といった古いプロセスを適用しているものが多い。今回のCOMPUTEXで我々はCortex-A9に比べて性能を40%高めた「Cortex-A12」を発表しており、我々のリードはさらに広がるだろう。
─ARMコア搭載SoCの製造を一手に担っているファウンドリー各社は、Intel社に比べると製造技術力の点で見劣りする。Intel社が既に量産している立体トランジスタ(FinFET)技術も、ファウンドリーにとっては大きなハードルになるとの見方が強い。
Bruce氏 我々は、台湾TSMCや米GLOBALFOUNDRIES社など複数のファウンドリーと緊密な協力関係を築いており、現行の28nm世代に続く、20nm世代や16/14nm世代に向けた協業を進めている。ファウンドリー各社が16/14nm世代で導入するFinFETプロセスに関しても、既に十分に良い検証結果を得ている。
─ARM社は最近、サーバー機分野の開拓に力を入れているが、この分野ではIntel社が依然として圧倒的に強い。
Viana氏 我々が目指しているのは、ARMコアがパソコン業界にもたらしたものを、サーバー業界にももたらすこと。つまり、現在のサーバー機を、電力効率などが格段に優れた別の姿へ変革することが我々の狙いだ。単に既存のサーバー機に使われているIntel社のプロセサをARMコア・ベースのプロセサに置き換えたいと考えているわけではない。
サーバー機分野でも、低電力を特徴とするARMコアを使いたいとの声は強まっている。実際、既に32ビットのARMコア・ベースのSoCを中国Baidu社がサーバー機に採用しており、他にも複数の案件が進んでいる。2013年後半には、64ビットのARMコアを搭載するサーバー機が各社から発表されることになるだろう。米HP社のように、これまではもっぱらIntel社のプロセサでサーバー機を構成していた企業も、ARMコアに高い関心を寄せ始めている。