実使用時の環境温度を再現しながら観察できる電子顕微鏡を米Intel社が開発し、「2013 ECTC」において熱伝導材(thermal interface material:TIM)界面の劣化現象の事例を示してその有効性をアピールした(講演番号22-7)。講演タイトルは「Advanced In Situ Characterization of TIM1 Reliability」。

 MPUなどチップからの発熱が大きいものは、TIMを介して熱をメタルリッド(integrated heat spreader:IHS)に伝え、さらにその熱は別のTIMを介して外付けのヒートシンクに伝えられる。この熱流経路に挿入された二つのTIMはバルクの熱抵抗に加えて、界面抵抗が加算されるので、実使用中にチップやIHSと剥離が進行すると、熱伝導が妨げられてしまう。それによって、デバイスの温度が上昇して性能劣化を引き起こす。このような市場不具合の原因を特定するために不良解析を行うが、それは一般的に室温で行うために、不良原因が特定されない場合も多々あった。

MPUの放熱構造(Intel社の資料)
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 今回の発表では、デバイスの実使用環境を電子顕微鏡内で再現しながら観察する手法を開発し、その解析実例を紹介した。Intel社はこの電子顕微鏡を「Environmental Scanning Electron Microscope(ESEM)」と呼んでおり、下図に示すように、サンプルを真空中で加熱(300℃まで)できる加熱ステージと、加熱して発生するガスを排気する機構が組み込まれた電子顕微鏡である。解像度はサブミクロンまで解析可能である。

ESEMの構造(Intel社の資料)
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 下記の画像は、この顕微鏡を用いて、フリップチップとTIMの界面を撮影したものであり、動作中の130℃の場合と室温の場合を示している。左の写真はチップとインジウム(In)の界面に金属間化合物AuIn2が形成されていない。130℃では両者間の界面の間隙が狭いのに対して、室温に下がると間隙が大きくなる。一方、右の写真はインジウムがチップ表面のAuと金属間化合物AuIn2を形成して粒が存在している。

ESEMの観察画像(Intel社の資料)
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 この金属間化合物AuIn2がTIM界面の接着剤の役割をしている。基板実装リフロー時などでこのデバイスを加熱して、インジウムの融点である170℃以上に達すると、TIMは液体金属になり、界面の接続に重要な役割を果たしている金属間化合物AuIn2は液体インジウムに溶けこんでしまう。

加熱時の観察画像(Intel社の資料)
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伝熱樹脂ペーストを用いたTIMは厚さが変化