講演するトヨタの川井氏
講演するトヨタの川井氏
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 「SEMI Forum Japan(SFJ)2013」(2013年5月21~22日、グランキューブ大阪)の会期2日目には、「パワーデバイスセミナー」が開催された。同セミナーでは、トヨタ自動車 第3電子開発部 主査の川井文彰氏が「トヨタの環境対応車技術とパワー半導体への期待」と題して講演した。PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)に搭載する充電装置(バッテリ・チャージャー)にSiCパワー半導体を適用した検証結果などを紹介した。

 川井氏はまず、同社のハイブリッド車「プリウス」におけるパワー・コントロール・ユニット(PCU)の歴代の進化を紹介した。2009年に発売した第3世代プリウスに搭載されているPCUは25cm×25cm×20cmほどの大きさで、ここに直冷方式のパワー・モジュールを内蔵している。同モジュールは1cm角ほどのIGBTとダイオードをそれぞれ22個ずつ搭載しているという。同パワー・モジュールは、第2世代から第3世代への移行に当たって、グリースを排除して直冷を可能とし、ヒート・シンクを排除して軽量化・低コスト化を実現した。加えて、実装用のAlワイヤを幅広のリボン形状に変えてワイヤの本数を減らし、生産性を高めたとする。

 パワー・モジュールに搭載するSi製IGBTに関しても、世代を経るごとに進化させている。電流容量は200Aで一定だが、耐圧は700V(第1世代)→850V(第2世代)→1250V(第3世代)、チップ面積(相対値)は1(第1世代)→0.79(第2世代)→0.65(第3世代)と進化させてきた。この間、IGBTのプレーナ構造をトレンチ構造に変えた他、薄膜構造を導入した。これにより、He照射による寿命制御などを可能としてきた。

 ところがここにきて、「Si製IGBTの性能は理論限界にかなり近づいており、ブレークスルーとしてSiC/GaNパワー半導体に期待している」と川井氏は話す。トヨタ自動車では、SiCパワー半導体とGaNパワー半導体を用途ごとに使い分けることを検討しているという。例えば、SiCパワー半導体は縦型の大電流デバイスを実現できることからモータ駆動用に、横型の小~中電流デバイスに向くGaNは降圧コンバータに使うといった具合だ。

 こうした新材料パワー半導体を導入する効果としては、パワー・モジュールの小型化や冷却システムの簡素化、燃費の向上などが見込めるとする。例えば、SiCパワー半導体の搭載によって、PCUに内蔵するパワー・モジュールの体積を従来比1/2~1/3にできるほか、パワー・モジュールの冷却システムをエンジン冷却システムと共有できるようになるとした。

出力密度が12倍に向上