Design Automation Conference(DAC)と並ぶ、LSIとシステム設計関係の国際会議「Asia and South Pacific Design Automation Conference(ASP-DAC) 2013」が2013年1月22日~25日にパシフィコ横浜で開催されている。本会議初日である23日の朝には、論文の採択状況などの報告やBest Paper Awardなどの表彰式があり、それに続いて、米IBM社が基調講演を行った。

講演するNassif氏(左端) 筆者が撮影。スクリーンはIBMのスライド。
講演するNassif氏(左端)
筆者が撮影。スクリーンはIBMのスライド。
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 登壇したのは、IBM Austin研究所のSani Nassif氏で、講演タイトルは「From Circuits to Cancer」だった。そのまま日本語訳すると、「回路から、がんへ」で意味不明だが、講演の主旨は、「LSIやEDAで培った技術が、がん治療に実際に役立った」ことの紹介である。ここのところ調子があまり芳しくないLSIやEDAの技術者を鼓舞する内容だった。

前立腺がんの治癒率が向上

 よく知らているように、がんは心臓病や脳血管疾病と並んで、人間を死に至らしめる原因の上位に挙げられる。米国の男性に限ると、がんは心臓病に次いで死因の2番目だという(日本人の場合は、がんが僅差の1位)。がんの中では肺がん死が最も多く、前立腺がん死がそれに次ぐ。近年、前立腺がん死は多少減少している。その理由は陽子線治療が前立腺がんに有効であることが判明し、前立腺がんの治癒率を向上させているからである。

 米国には、がん治療を目的とした陽子線治療センターが10カ所ある。センター1カ所の建設費用は1億5000万米ドル、すなわち135億円程度が要る。これは素粒子の加速器を含む大規模な装置が必要だからだ。

 陽子線治療では、陽子が当たった場所付近のがん細胞の再生能力を奪うことにより、がん細胞を死滅させる。しかし、一般の細胞からも再生能力を奪うため、ピンポイントでがん細胞に陽子線を当てることが重要になる。陽子線の治療は、他の放射線と違って装置から約10cm離れたところで最も効果が高い。

 このため、陽子線を適切な方向と形状で適切な時間・量を照射すれば、陽子線の通り道の通常細胞にあまり影響を与えずに、がん細胞だけを狙い撃ちすることが可能である。そのためには大規模な物理情報をモデリングし、アルゴリズムを組み立て、ソフトウエアを開発することができるLSIやEDAのエンジニアの能力が有効であるとした。