ウエルカム・アドレスの様子(写真:Tech-On!)
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特殊なプロセスを使わない圧力センサの断面(写真:State Key Lab of Transducer Technology, Shanghai Institute of Microsystem and Information)
特殊なプロセスを使わない圧力センサの断面(写真:State Key Lab of Transducer Technology, Shanghai Institute of Microsystem and Information)
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Siクロックを利用した圧力センサのダイヤフラム部の断面(写真:Stanford University, Stanford, Robert Bosch RTC)
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 今回,中国Shanghai Institute of Microsystem and Information TechnologyのXinxin Liさん(以前,我々の研究室で研究員をしていましたが,今は中国で最も活躍しているMEMS研究者の一人です)のグループから,とてもよく考えられた圧力センサが発表されました(論文番号:3A-6)。(111) Si基板に細い溝を加工し,そこから基板内部をアルカリエッチャントでアンダーエッチングして空洞を作り,前述の細い溝をポリSiで塞いでダイヤフラムを形成します。これは,ドイツRobert Bosch社の”silicon on nothing”型の圧力センサ(Lammel et al., Transducers ’07)と同じように,裏面エッチングや基板接合なしに,ダイヤフラムとその下の圧力基準空間とを作る技術ですが,陽極化成や水素アニールといった特殊プロセスを利用しない点でより簡単だと言えます。Liさんが言うに,中国にたくさんある標準的なSiファンドリですぐに作れるものです。

 今回は,この圧力センサがさらに片持ちで基板内に支えられ,外部からの応力に影響されないように工夫されています。パッケージング・実装時の応力による影響をいかに抑えるかは,圧力センサでも課題の一つだからです。このような形にするのにも,同様に細い溝から基板内部をアンダーエッチングする加工法が採られています。出来上がったセンサは1 mm角を大きく下回る大きさで,センサ主要部は500 μm四方程度しかありません。製造方法も比較的簡単であり,安い気圧センサとして期待が持てます。中国が請負製造だけから脱皮する日は近いのでしょうか。

 もう1件,米Stanford大学のThomas Kenny先生の研究室からも圧力センサの発表がありました(論文番号:3A-5)。この圧力センサは,Kenny先生とRobert Bosch社の加工技術でつくられ,SiTimeから実用化されているSiクロック共振子を応用したもので,圧力によってダイヤフラム(共振子のパッケージングと共通)が歪むと共振周波数が変化する原理を用いています。この原理の圧力センサは,横河電機で後に東京農工大学の教授となられた池田先生(御退職)が中心になって開発され,”DPharp”という商品名で実用化されています。実はこの共振式圧力センサの共振子の気密封止方法も,米SiTime社のSiクロック共振子のそれとよく似ているのですが,池田先生らの技術は1980年代には既に開発されていましたから(Ikeda et al., 7th Sensors Symposium (1988)),日本のMEMSはとても進んでいたと言えます。

 さて,新しく発表された共振式圧力センサの特徴は,静電共振子が三つ備えられ,一つは圧力測定用,一つは温度補正用(圧力に感じないように片持ちで支えられています),最後の一つはパッケージング・実装歪の補正用(ダイヤフラムから外れたところに作製されています)です。三つ目の機能は,前述のLiさんが取り組んだのと同じ課題に対処するものです。このセンサの大きさは1.5 mm角程度です。