例年、次世代トランジスタ技術に関する発表が相次ぐ「International Electron Devices Meeting(IEDM)」。5年ほど前まで、その主役は「ひずみSi」や「high-k/メタル・ゲート」といった、Si-CMOSのブースタ(性能向上)技術だった。ここ数年で、その様相は一変した。これらのブースタ技術は量産に幅広く使われるようになったことで、関連発表が激減。代わって主役に躍り出たのが、“ポストSi材料”だ。Siに比べてキャリア移動度が高いGeやIII-V族化合物半導体(以下、III-V族)である。

 GeやIII-V族を用いたトランジスタは、大きく二つの用途で期待を集めている。第1は、高速版ロジックLSI向けのトランジスタ。低い駆動電圧で高いオン電流が得られる特徴が生きる。第2は、低電力版ロジックLSIなどに向けるトンネルFETだ。トンネルFETはバンド間トンネル現象などを利用するデバイスで、オン電流の立ち上がりをSi-CMOSでは実現できない水準にまで急峻にできる。このため、オフ・リーク電流を劇的に小さくできる。さらにこれら両方の用途で、GeやIII-V族をベースとする光素子と論理回路を、同一ウエハー上に集積できる可能性がある。いわゆる「Siフォトニクス」への道を開く材料でもあるわけだ。

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図1●IEDM 2012の技術セッションの概要

 2012年12月に開催された「IEDM 2012」では、GeやIII-V族をチャネル材料とするトランジスタ技術が、五つものセッションにわたって発表された(図1)。セッション6(太陽電池/MEMS/トンネルFET)、同16(Ge/InAsトランジスタ)、同23(Ge/III-V族トランジスタ)、同27(次世代パワー・光デバイス)、同32(III-V族ロジック・デバイス)である。発表件数は合計で20以上に達した。

 GeやIII-V族を用いたトランジスタ技術に関して、これまで注目を集めてきたのが、米Intel社による発表だ。ここ数年はIEDMで多数の技術発表を行い、業界に先駆けて開発を進める意気込みを示してきた。同社が関連技術の発表を控えた今回、代わって存在感を示したのが台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.)だった。