[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 日産自動車は2004年9月に、その後国内で販売する予定のモデル6車種を一斉に披露した。その最後に発売されたのが「SHIFT_ compact flexibility」をテーマとする「ノート」である。 NOTEという名は、日本人の英語感覚からすれば記帳するためのノートがまず思い浮かぶが、そのほかに音符という意味があり、「リズミカルに毎日を楽しく過ごす、そんな日々を記録するノート」から付けられた名称だという。

 クルマの構成要素からいえば、ノートは「マーチ」にはじまり、「キューブ」「キューブキュービック」「ティーダ」「ティーダラティオ」と続いた一連の車種と同じ「Bプラットフォーム」を持つ。実際、ノートを試乗してまず感じるのは、ダンパの仕上がりに左右される乗り心地や、電動パワーステアリングの操舵感覚などに、これまで経験を積み重ねてきた成果が表れていて、いいクルマに仕上がっているということだ。

 普通であることが良い、という価値を目指して開発されたノートは、エンジン出力やシャシー性能、あるいは室内のシートアレンジなどで、際立つ何かを持っているわけではない。だが、カルロス・ゴーン社長が就任してからの日産車の例に漏れず、ノートは洗練されたデザインを持つし、走る姿を見て他車とは何かが違うと感じさせると同時に、一目で日産車と分かるアイデンティティを備えている。その上で普通だというのだから、ノートが単に凡庸なクルマであるわけではない。

 笑顔がキーワードの一つというインテリアは、丸みを帯びたデザインが各所に施され、居心地の良い空間に仕上がっている。前方視界やメータの見易さなど、クルマを走らせる上での大切な要件や、各スイッチなどの操作性を満たすように配慮したデザインだ。

 いざ走らせると、しっかり安定した操縦性の確かさが、ステアリングやシートから伝わってくる。シートは、十分な大きさと、身体にうまくあった形状、細かく調整できるシートスライドやシートバック角度を備えており、心地よく運転できる。そのうえ、ティーダではまだ不満の残った低~中速で走行中に、上下に弾む乗り心地の不快さは収まっていた。もちろん、マーチ以来、当初から優れていた高速コーナリングの安定性はそのままだ。

 また、電動パワーステアリングも、直進時にはどっしり構えた安定性が手のひらに伝わり、そこからステアリングを切り込むときの操舵力の手ごたえもごく自然である。右に切り、左に切り、そして真っ直ぐに収まる。その一連の動きに連続性があり、運転中余計なことで意識を乱さない、いい感触に出来上がっている。やや直進時に重く落ち着きすぎる気がしないでもないが、それで何か不都合があるかと聞かれれば、特には思い浮かばない。試乗の折、高速道路では横風が強かったが、ステアリングのどっしり落ち着いた感触の効果もあって、安心してスピードを維持することができた。

 エンジンは1.5L一種類で、モータにより後輪を駆動する4輪駆動仕様車では70kgほど車両重量が重くなるが、それでも不足を感じさせないトルクと出力を備える。前輪駆動仕様車ともなれば、さらに勢いよく加速する余裕が生まれる。高速で一気にスピードを上げようというときでも、CVTが無闇にエンジン回転を上げすぎないゆとりがある。

 かつて、日産はワンボックスカーなどでシートアレンジの多さをカタログで誇ったことがある。そのアレンジ数、100を超える・・・などだ。しかしノートは、ごく基本的な、本当に必要かつ日常的に使う機会の多い機能に徹した潔さがある。

 また、後席のドア形状が工夫されており、腰から先にシートに座る場合の乗り降りもしやすい。実際、背の低い人や高齢者、あるいは幼児を抱きかかえたりした場合など、シートに座りやすいかどうかだけで、出掛ける気持ちになるかどうかが決まってしまうことがある。こうしたことに気を配りながら、カタログでことさらに強調するための特徴をあえて追求しなかった普通さが、ノートの魅力である。

 細かな点では、インテリア各部のはめ合いの隙間がトヨタの新型「ヴィッツ」などと比較するときめ細かさに不足を感じるし、シフトレバーのオーバードライブON/OFFスイッチなどは、CVTでありながら昔ながらのオートマチック然とした扱いにくさを残す。また、オートエアコンのスイッチや目盛りの形状は、表面が凸型デザインであるため、光の加減で見にくくなって凝視しなければ判別が付きにくいなど、デザインのためのデザインに終わっている部分もなくはない。

 だが、マーチにはじまるBプラットフォームを使った一連の車種の最後を飾るクルマとして、その仕上がりは全般的に大きく進化している。そして、普通であることの大切さを追求した点は、大いに評価したいところだ。