VPM技術研究所代表取締役所長の佐藤嘉彦氏
VPM技術研究所代表取締役所長の佐藤嘉彦氏
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 「高品質」の代名詞とも言える日本メーカーの自動車。その大規模リコールが止まらない。日本メーカーの製品の品質に異変が生じているのではないか?──。日本におけるVEおよびテアダウンの第一人者であり、「技術者塾」の講師の1人であるVPM技術研究所代表取締役所長の佐藤嘉彦氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──自動車業界で大規模リコールが止まりません。日本メーカーの製品の品質が落ちているのでしょうか。

佐藤氏:最近、ものすごく気になっていることがあります。品質への見方に緩みが生じている日本メーカーが増えているのではではないか、ということです。

 ある日本の自動車メーカーが東南アジアでクルマを量産し始めた時のこと。その自動車メーカーの系列部品メーカーの人に「忙しいでしょう?」と私は聞いてみました。そのクルマは、低コスト化の一環で国内生産から海外生産にシフトしたものでした。従って、品質を維持するために現地で多忙を極めていると思ったのです。

 ところが、意外なことに「そうでもありません」という答えが返ってきました。思わず「どうして?」と尋ねると、その自動車メーカーのトップが「日本の部品メーカーは現地に行くなと言ったからです」というのです。そのトップ曰く、その国では既にドイツの高級車も造っているから、品質は十分高い。日本メーカーが現地に行くと、「日本品質」を押しつけるからコストが高くなってしまう。だから、日本の部品メーカーは現地に行くな──と。

 これまで日本の自動車メーカーは、品質に関してダブルスタンダードは持っていませんでした。そういう意味では「日本品質」1つで造り上げてきた。ところが、今、品質に関して割り切った見方のクルマづくりをする自動車メーカーが日本から出てきているのです。日本メーカーの製品は高品質という“神話”が崩れてきているのかもしれません。

──その自動車メーカーのトップは、日本メーカーが求める品質基準は世界的に見ると高すぎるから、その国のレベルに合わせた品質基準で良いという判断を下したということですね。

佐藤氏:東南アジアで造られたそのクルマを、日本でレンタカーとして借りたことがあります。運転手は別の人で、私は助手席に乗りました。これが東南アジアで生産したクルマかと思いながら助手席の前のグローブボックスを開けたところ、蓋がパカンと外れた。新車だったのに。

 後日、その自動車メーカーの人に聞いたところ、「日本の検査基準書を海外メーカーに渡してはいけないと言われている」とのことでした。当然、これでは日本品質とは違うクルマですね。立派にクルマを造れているんだから、その国の検査基準書でものづくりをさせろと、トップは言う。しかし、日本を含めて世界に輸出しているのに、日本と東南アジアの品質基準のズレがあっても問題ないという感覚は違うのではないでしょうか。

 ある日本メーカーはコスト削減のために大型の鋳物部品を中国メーカーに発注したところ、いろいろな箇所に巣(空洞)が入ったものが納品されてきました。中には、人間の頭ほどもある大きな巣もあった。しかし、時間とコストがかかることから、送り返すことはできない。仕方がないから、日本で溶接棒を使って巣を埋めたのです。すると、次回もまた巣のある鋳物部品を、その中国メーカーは送ってきた。「どうせ日本で直せるだろうから」と。

 海外調達を命じたのはこの日本メーカーのトップでした。海外調達により、コストをいくら削減できたと数字では報告できます。ところが、ここでまさか人間の頭ほどの巣がある鋳物部品だったなんて社員は言えない。そこで、この修正費用は別の予算で埋めて、上には「海外調達率がこんなに高くなりました」と報告していた。笑ってしまいませんか? このように、低い海外品質を容認してしまっている日本メーカーがあるというわけです。