ワールドテック代表取締役の寺倉修氏
ワールドテック代表取締役の寺倉修氏
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──分業化して専門分野を深掘りできるようになった一方で、全体を経験する人が少なくなったという指摘はよく聞きますね。効率化を進める一方で、きちんと設計力を高める努力が必要だと思います。しかし、設計力と聞くと幅広く、具体的に何を指しているのかが分かりにくい人もいるのではないでしょうか。

寺倉氏:設計とは、顧客のニーズを聞いてから後工程に問題のない図面を渡すまでの仕事です。設計力とは、それをやりきる力なのです。もう少し詳しくみていくと、設計力は大きく2つに分けることができます。「前半の設計力」と「後半の設計力」です。

 前半の設計力は、次の2つで構成されています。1つは、顧客のニーズを満たすために必要な中核技術(ネック技術とも言う)を解決する力です。例えば、ICレコーダーであれば録音機能が中核技術に相当する。現行のICレコーダーよりも高音質の録音がしたいという顧客のニーズがあれば、それをクリアする技術がなければ設計することはできません。

 前半の設計力のもう1つは、コストや機能などの目標値、すなわち設計目標値を“根拠”を持って設定できる力です。例えば、ある製品を1万円で造ると決めたとします。では、そのコストにしかるべき根拠はありますか。当然、世界には競合メーカーがあるはずです。そこが同じ機能の製品を9000円で造ろうとしていたら、その時点でもう負けています。こうしたことを見通して設計目標値を決められるかどうかが、非常に重要なのです。

 こうして中核技術は解決できそうだ、設計目標値も設定できたとなっても、設計はまだ前半段階。その後がさらに重要なのです。

──そこからが後半の設計力ですね?

寺倉氏:そうです。後半の設計力は、設計目標値を達成するための詳細設計ができる力のこと。平たく言えば、100万個造っても不良品を1個も出さない活動をやりきる力のことなのです。これが実に難しい。リコールや品質不具合と聞くと多くの人は、部品が折れたり壊れたり爆発したり…といったことを連想します。しかし、リコールや品質不具合とは、すなわち「設計目標値の未達」のことです。例えば、機能の設計目標値が1であるのに対し、実際には0.99しか実現できなかった。これがリコールであり品質不具合です。折れたり壊れたり爆発したりといった現象は、設計目標値の未達がはっきりとした形となって現れたものに過ぎないのです。

──品質不具合を1ppmに抑える力ということでしょうか。

寺倉氏:1ppmなら出してもよいなどとは言いません。1ppmたりとも出さない。基本的にゼロを目指した取り組みをやりきる。これが後半の設計力なのです。

 多くの人は、設計力とは何かと問われると「技術だ」と答えます。設計力の高低とは技術力の高低のことだと。例えば、メカ製品を造れる機械系技術を持った会社が、メカ製品だけではなくて電子製品を手掛けたいと思って電子技術も身に付けた。そのうち、半導体を使った技術も習得した。だから、設計力が高まった、と。しかし、これは設計力のある断面(ごく一部)に過ぎません。

 基本に立ち返ってみてください。企業として最も大切なことは、顧客から製品を受注することではありませんか。設計もこのために行っているのです。では、受注を獲得するためには何が必要か。ある優れた技術を持っていたとしても、安心して量産を任せられるレベルに達していない企業に、顧客は発注などしません。顧客が発注先に選ぶのは、「こういうレベルの製品であれば、100万個生産してもほとんど品質不具合を出さないだろう」と考えられる企業です。つまり、後半の設計力を備えた企業というわけです。