ワールドテック代表取締役の寺倉修氏
ワールドテック代表取締役の寺倉修氏
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 自動車のリコール件数が減らない。この事態に警鐘を鳴らすのは、ワールドテック代表取締役の寺倉修氏だ。デンソーにおいて車載システムの設計を長年手掛けた同氏は、「リコールのデータを見る限り、日本メーカーの設計力は落ちつつあると言わざるを得ない」と指摘する。

 「技術者塾」において(1)「車載システムで品質トラブルをなくす、設計力向上の勘所」、(2)「車載システムで品質トラブルをなくす、設計力を支えるDRの勘所」の講座を持つ寺倉氏に、日本メーカーの設計業務に今、何が起きているのか。そして、「真の設計力」とは何かについて同氏に聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──寺倉先生が講師を務める設計力向上に関する講座が人気です。その理由なのですが、実は今、設計力の低下を認識している日本メーカーが多いからではありませんか。

寺倉氏:データから判断すると、日本メーカーの設計力は落ちつつあると言わざるを得ません。データとは、国土交通省が発表している自動車のリコール情報のことです。ここ7~8年の間ずっとリコール件数は約200件/年もあり、減っていません。さらに注目すべきは、リコールの原因です。設計に起因するものが、製造に起因するものに比べて2倍ほど多くなっており、これも毎年変わっていないのです。

 受講者の認識の変化からも、設計力に何らかの変調を来していることがうかがえます。講師の仕事をするようになって以来、私は「製品の品質不具合の原因が設計と製造のどちらにあると思うか」と受講者に聞いてきました。当初は「製造」という意見が多かったのですが、4~5年ほど前から「設計」という声が大きくなりました。こうした現象から、リコールを含めた品質不具合は設計に大きな問題があるという認識が、現在の日本メーカーに広まっているのではないかと思います。

──約200というリコール件数は、あくまでも不具合の原因の件数ですね。リコール対象となったクルマの総数とは違います。

寺倉氏:そうです。今、リコール1件の対象台数は増えていますから、不具合の総数は増えています。その意味でも、設計の重要性は増していると言えます。

──日本メーカーの設計力が落ちている背景には何があると考えられるのでしょうか。

寺倉氏:日本が製造業に力を入れ始めてから成長期に当たる1960~1980年代にかけて、日本メーカーの設計者は、前例や設計の基盤があまりないため、一から試行錯誤しながらものづくりをしていました。設計にはいろいろなステップがあります。顧客のニーズを聞いてから図面を後工程である製造工程に送るまでに長い期間があるのです。例えば、車載製品であれば1年や2年といった期間がかかります。従来は最初から最後まで同じ設計者やチームが担当することが多かった。

 ところが、最近は多くの日本メーカーが過去の蓄積や基盤を備えている。そのため、一から試行錯誤しなくても、マニュアルや過去のデータを引っ張り出してぱぱっと組み合わせれば、机上やパソコンの上で一応の設計が出来てしまう。確かに、効率は高まるかもしれません。でも、こうした方法に偏りすぎると、開発の基礎力である「考える力」が弱くなり、次第に「ものづくりの本質」を理解する力を失っていく。極端な例かもしれませんが、最近は製品や生産現場を見たことがないまま設計を行っている設計者がいるのです。

 設計は本来泥臭い仕事です。空調が効いた部屋でパソコンとにらめっこしながら完成するものではありません。ものづくりの全工程を把握し、自ら部品や試作品を触ったりしながら設計しなければ、設計力は身に付きにくい。そういう意味では、最近はマニュアルと分業化が進んで、ものづくりの本質を習得しにくい環境になっていると思います。設計力はトータルな力。ある部分だけを懸命にやっても、全体は把握できません。設計には、ものすごく幅広い知見や経験が必要なのです。

 以上は人に焦点を当てたものですが、他にも、製品の機能が高度化・複雑化している一方で、その進化に十分対応しきれていないことも、設計力が落ちているように感じる一因になっていると思います。