真夏の太陽がジリジリと照り付ける中、広大な畑の一角に青々としたホップが生い茂っている。手ですくって顔に近づけると、柑橘系の香りがほのかに広がる。2015年8月6日、京都府与謝野町のあっぷるふぁーむで「ホップ収穫セレモニー」が開かれた。このホップが、新たな産業を興すための切り札となるのだ。

セレモニーには、与謝野町長の山添藤真氏やホップの生産者をはじめ、多くの関係者が参加した。
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なぜ、クラフトビールなのか

 現在、与謝野町は、地域の産業振興をまちづくりの中核に据えた「与謝野ブランド戦略」を掲げている。2015年5月には、この戦略を推進するクリエイティブディレクターとして、エムテド代表取締役、アートディレクター/デザイナーの田子學氏を招聘した。田子氏は、デザインを根幹に据えて多様な問題を解決する経営手法「デザインマネジメント」によって、たくさんの悩める企業を救ってきた。そのデザインマネジメントを今度は、町おこしに活用しようというのである(関連記事)。

与謝野ブランド戦略の“クリエイティブディレクター”を務める田子學氏。
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 与謝野ブランド戦略の目玉の一つが、与謝野町産のホップを使った「与謝野クラフトビール醸造事業」だ。ものづくり産業の強化策である。クラフトビールとは、小規模な醸造所(ブルワリー)が造るビールのこと。近年、醸造技術の向上などを背景に高品質なクラフトビールが次々と誕生し、その需要は急速に増えている。

 与謝野町のクラフトビール醸造事業でも、ビールの原料となるホップの生産(第一次産業)に加えて、ホップの加工やクラフトビールの醸造(第二次産業)、さらにはそれらの流通・販売(第三次産業)も含めた「六次産業化」を見据えている。

 与謝野町にとって、ホップの生産・加工やクラフトビールの醸造は、ほとんど未知の分野である。とはいえ、単に「流行しているから」「もうかりそうだから」といった安易な理由で参入するわけではない。勝算はある。

 実は、国内でホップを生産している農家の大多数は、大手ビールメーカーと契約している。国産ホップは大手ビールメーカーが独占的に使っており、小規模なブルワリーは海外からの輸入に頼るしかなかった。国産ホップそのものが市場でほとんど流通していないのだ。

 国産ホップを使ったクラフトビールを生み出せれば、日本のクラフトビールの歴史に新たな一歩を刻むことになる。それが、与謝野町産のホップを使い、与謝野町で醸造したビールだとしたら…。他には真似できない、唯一無二のブランドとして確立できる。これが与謝野町が目指すクラフトビールの姿である。