市場不具合や事故といった品質・安全に関するトラブルを低減・撲滅することは、製造業の設計開発の現場における重要な課題です。しかし、ある設計部署で起きたトラブルが別の部署で再発したり、新製品を設計開発する際に後工程での不具合による手戻りがなかなか減らなかったりと、苦労している現場が少なくありません。
 トラブルの未然防止を実現するためには、過去の市場不具合や開発の試験段階で検出した不具合など社内で共有する情報を活用することが必要です。そこでポイントとなるのが、これらの情報に含まれる技術的な知識の再利用性の高さです。単に不具合情報を収集・蓄積するだけでは、現場でうまく活用できないからです。
 以下では、社内で共有する不具合情報に眠る知識の再利用性を高めて未然防止に活用できるようにする取り組みとして、知識を構造的に表現する「SSM(Stress-Strength Model)」を紹介します。

 トラブルの未然防止において、過去に起きた不具合の情報を収集して再発防止を進めることは不可欠な取り組みです。またこれに加えて、設計・評価の技術標準を整備し、DR(デザインレビュー)、FMEA(故障モードと影響解析)、FTA(フォルトツリー解析)などの活動を強化するなど、設計プロセスや技術管理の改善を進めることも大切です。

 しかし実際にはこのような取り組みがうまく進められていない設計現場が少なくありません。社内の知識の再利用性を高めて未然防止を強化する取り組みに関するシンポジウム「知識構造化シンポジウム」(主催: 日本科学技術連盟)の参加者に対して実施したアンケートでも、「不具合の記録が関係部署で広く活用できていない」、「FMEAやFTAの取り組みは行っているが、未然防止に役立っているとはあまり感じられない」、「設計基準や評価基準が有効に活用されていない」という意見が多くみられました。実際、筆者は未然防止システムの構築を手伝う仕事をしていますが、同様の問題意識を持つ現場からの相談をよく受けます。