高戸雄二氏
プラーナー
シニア・コンサルタント

 設計・生産のグローバル化が進む中、グローバル図面を作成する上で幾何公差(形状や姿勢、位置、振れに関する許容差)の重要性が増している。寸法公差だけでは設計者の意図を正確に伝えきれないからだ。実は、「幾何公差」はグローバル・スタンダード(世界標準)となっている。

 「技術者塾」において「グローバル図面に必須の「幾何公差」の勘所」の講座を持つ、プラーナーシニア・コンサルタントの高戸雄二氏に、幾何公差を習得するメリットや学ぶポイントを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──幾何公差の講座は公差設計と共に高い人気です。幾何公差を学ぶ人は、なぜ増えているのでしょうか。できましたら事例を挙げながら、幾何公差について習得する効果(メリット)をご紹介ください。

高戸氏:図を使って説明しましょう。寸法公差を使って図1のような部品(薄い板状の部品)を発注した場合、設計者は、下図のような公差の中心に収まり、平行性も良いものを期待していると思います。

●図1
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 ところが、この図面で海外に製造を委託すると、図2のように平行性が悪く、面もうねっているものが納入されることがあります。当然、使い物になりません。つまり、寸法公差だけの図面では不十分だということです。これは、製造した海外のメーカーが悪いのではなく、図面の表記に問題があるという事例です。

●図2
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 そこで、図3のように幾何公差を追加します。

●図3
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 この図面であれば、設計者の意図するものが世界のどこでも製造できます。幾何公差をきちんと習得すると、こうした効果が期待できます。ただし、間違った表記や過剰な最大実体公差方式の適用では効果は期待できません。

 「技術者塾」には公差設計の講座「グローバル図面を実現する「公差設計」の勘所」もありますが、公差設計から得た公差を表記するのに必要かつ十分なツールがこの幾何公差です。私が講師を務める幾何公差の講座「グローバル図面に必須の「幾何公差」の勘所」では、正しく、効率的で、世界共通でもある幾何公差を習得し、あしたからの設計業務に生かしてもらいたいと思います。

──幾何公差は、今後ますます必要になっていくのでしょうか。その場合、理由(背景)は何ですか。

高戸氏:現状を見ると、図面を使って製品を造る場合、企業間で大きなバラつきがあります。それどころか、同じ企業の中でも部門間でバラつきがあるという状態です。幾何公差は図面を作成する設計部門だけのものではありません。図面に接する人は全員、知っておくべきツールです。図面に基づいて製造するメーカーの社員は言わずもがなです。

 繰り返しますが、幾何公差は設計者の意図を正確に、効率的に伝えるツールです。多少、記号やルールなどで戸惑う場合もあるかもしれませんが、幾何公差は製造・測定者側からの視点も踏まえてつくられています。従って、製造・測定者側の方が受け入れやすい面があります。

 幾何公差のニーズは増加することこそあれ、減少することはないでしょう。ものづくりのグローバル化が急速に進んでいる一方で、メーカーは世界のどこで造っても同じ製品を造らなければならないからです。この条件を満たすツールが幾何公差なのです。

 設計者は、これまで寸法公差を使って図面を描いてきました。今後は、寸法公差と幾何公差を併用する図面を描くことを、普通に求められるようになるはずです。

──幾何公差を学ぶ上でのキーポイントを教えてください。

高戸氏:キーポイントは2つあります。1つは、寸法公差をきちんと押さえること。幾何公差を学ぶ上で、寸法公差がベースになるからです。もう1つは、独学した幾何公差を使っている人は、本セミナーではそれを忘れてゼロから学んでほしいと思います。

──「技術者塾」では、どのようなポイントに力点を置いて説明する予定ですか。また、そこに力点を置く理由を教えてください。

高戸氏:ポイントは3点あります。まず、(1)寸法公差との違いと、幾何公差のメリット。寸法公差との違いがどこにあるのか、また、幾何公差を適用するメリットはどこにあるのかを解説します。続いて、(2)幾何公差で公差を記入する場合に、公差設計手法が必要不可欠であることを説明します。公差設計を行って公差を設定する場合には、品質やコストの観点から製造方法や測定方法もきちんと把握しておく必要があります。そして、(3)14種類ある幾何公差の違いを解説します。14種類の中には似ているように感じるものがありますが、違うものです。それらの違いについて分かりやすく説明していきます。これにより、設計者の意図に沿った幾何公差が設定できるのです。

──想定する受講者はどのような方ですか。

高戸氏:先の通り、図面を扱う企業の社員全般です。また、ぜひ受講していただきたいと思うのは、設計、技術、製造、品質保証などの部門で幾何公差の導入を進めたいと考えている責任者、およびその上司の方です。できる限り早く、幾何公差の図面を描くことを実践すべきと考えているからです。人事部などで「そろそろ当社も幾何公差の導入を検討しようか」といったスタンスでは遅いと思います。

──受講することで、受講者はどのようなスキルを身につけることができますか。

高戸氏:寸法公差との違いを理解し、最適な幾何公差を指示できて、幾何公差を正しく使った図面が描けるようになります。加えて、図面を描くだけではなく、製造方法や測定方法を知って適切な公差を記入する必要性を体得できると思います。