プラーナー会長 栗山 弘氏
プラーナー会長 栗山 弘氏
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 生産に加えて設計のグローバル化が加速する中、図面に記載された公差(寸法などに関する許容差)情報の重要性が増している。公差により製品の品質やコストは左右されるからだ。ところが、最近、図面に記された公差の「質」がいつの間にか低下し、それに起因するトラブルが多発している。

 「技術者塾」において「グローバル図面を実現する「公差設計」の勘所」の講座を持つ、プラーナー会長の栗山 弘氏に、公差設計を習得するメリットや学ぶポイントを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──公差設計の講座が人気を集めています。なぜ、公差設計を学ぶ人が増えているのでしょうか。

栗山氏:公差は、ものづくりに携わる技術者にとって「基本中の基本」です。設計で決めた部品の形状や大きさが、実際に製造したときにその通りになるとは限りません。むしろ、必ずバラつきが発生すると考えた方がいい。では、そのバラつきをどの程度まで許容するのか。それを表す公差情報は設計内容を具現化する上で不可欠な、設計と製造の「架け橋」なのです。

 この基本中の基本であるはずの公差を、もう一度学び直そうとするメーカーや技術者がここ数年で急に増えてきました。一体、日本のものづくりに何が起きているのでしょうか。

 日本のものづくりの強さを支えているのは、高品質と低コストを実現できる競争力です。その土台となっているのは、長年培ってきた公差のノウハウ。ところが今、この土台が崩壊の危機に直面しているのです。

 実は、「最近、当社では図面と違うものが出来てくるようになった」という声を、多くの日本メーカーの管理職から聞くようになりました。グローバルなものづくりが急速に進む中、設計図面がそれに対応できていないのです。その最大の原因は、設計者が公差設計を正しく実践できていないことにあります。寸法がバラつくだけではありません。他にも、コスト(失敗による手戻りコスト)の増加や、次期開発商品の遅れ(設計者の手離れの悪さ)などの悪循環にもつながってしまっています。こうした現実が、日本のものづくりの背後には隠れているのです。

──公差設計は、今後ますます必要になっていくのでしょうか。その場合、理由(背景)は何ですか。

栗山氏:ご承知の通り、製造業のグローバル化は急ピッチで進んでいます。日本ではまだ残っている設計と製造の「あうんの呼吸」を海外で期待することは難しい。従って、海外の製造拠点には公差が正しく表記された図面(グローバル図面)を製造側に渡すことが、ますます大切になってきているのです。

 グローバル図面でまず注目されるのは、幾何公差(形状や姿勢、位置、振れに関する許容差)です。しかし、幾何公差を正しく表記するには、公差設計が正しく行われていることが大前提です。設計意図を込める技術である「公差設計」と、それを正しく伝えるための技術である「幾何公差」は、ちょうどクルマの両輪のようなもの。正しくモノを造るには、公差計算により公差値を決め、それを幾何公差で表記した正しい設計図面になっていなければなりません。

 つまり、ものづくりのグローバル化を進めつつ、強みである高品質と高いコスト競争力を発揮し続けるには、「公差」をきちんと押さえて高水準の図面品質を維持することが、日本メーカーに求められます。猶予はありません。喫緊の課題です。

 実は、公差設計しやすい設計こそ、管理しやすい設計です。部品も造りやすく、組み立ても容易になる。公差設計を極めるほど、幾何公差も極めたくなるものです。まさに、クルマの両輪です。

──公差設計を学ぶ上でのキーポイントを教えてください。

栗山氏:まずは、基本知識を学ぶこと。公差設計を正しく行うためには、幅広い知識を身に付ける必要があります。公差を勉強し始めたばかりの技術者が懸命に学ぶのは当然ですが、公差の基本知識については十分身に付けていると自負している技術者も、改めて学習してみてください。当たり前だと思っていたことでも、実はある一面しか捉えていなかったというケースが必ずあるはずです。

 続いて、公差設計の「PDCA」を押さえることです。これは次のことを表しています。 公差の値を決める公差計算「=Plan」、公差情報を図面上に正しく表現する幾何公差「=Do」、製造側の実力(工程能力)を確認する「=Check」、そして、これらを評価して次の製品における公差設計に反映させる「=Act」、です。このPDCAサイクルを繰り返していくことにより、公差設計の実力が向上していきます。

──「技術者塾」では、どのようなポイントに力点を置いて説明する予定ですか。また、そこに力点を置く理由を教えてください。

栗山氏:公差設計理論の全てを1日間で凝縮して説明します。テキストには、70社、500テーマ以上の実践指導会で使った重要事項を盛り込みました。公差設計の成果事例から具体的な計算方法まで幅広く解説し、ガタ・レバー比、幾何公差の公差計算についても教えます。加えて、3D公差解析ソフトや電子回路の公差設計についても紹介します。計算は行なわないので、電卓は不要です。

 特に、ガタ・レバー比は、しっかりと理解しておく必要があります。今、技術者は非常に厳しい設計が求められていますが、公差設計理論を正しく用いることで、コストと品質の両面をつくり込んでいきましょう。

──想定する受講者はどのような方ですか。また、受講することでどのようなスキルを得られますか。

栗山氏:初心者から既に公差設計を実施している人、公差設計の教育担当者などまで幅広く対応しています。公差設計の全体像を素早く把握したいという人に最適です。得られる効果としては、まず公差設計の全てを他者に説明できるようになります。加えて、自社における公差設計の推進リーダーとしてふさわしい知識を得ることができます。