次の開発に生きる、貴重な経験となるはずである

 開発を進める中で大事なこと、それは、相手を尊重し慮ることではあるまいか。同僚や上司、そして何より顧客や協力者、そのような人たちを慮り、いつも何かしてあげることはないか、そのように、為合う相手や身の回りを思いやることではないだろうか。

 身近なことでは、職場の中で会社の備品を粗末に扱ったり、乱暴にしたりしないことだ。あるいは、ものづくりの現場で機械装置を乱暴に扱ったり、手入れを怠ったりすることのないようにすることだ。

 言わば「5S」のようなものかもしれないが、少し違う。5Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)のことだが、これは決められたルールや手順を正しく守る習慣を身に付けるための、基本的行動を定義したものだが、残心は、自らの意志による気付きであり、能動的な意識である。

 振り返ると、今の社会において、このようなことを考えながら開発を進めることはないように思う。

 いつも誰かと競争し、押しのけ、勝った負けたと悔しがる。お互いを慮り合いながら何かを学ぼうなんて、これっぽちもないではないか。

 だから、開発に疲れ、開発で消耗し、挙句、開発が縮む一方なのである。

 さあ、残心を意識しよう。特に開発をする中で残心しよう。

 そうすれば、例え開発が上手くいかない場合でも、残心することで、周囲の教えや配慮に気付き、相手に感謝することができるようになる。そして、それが次の開発に生きる、貴重な経験となるのである。

 ところで、私の最近の残心は何かって? ふふふ、それはいつも決まっている。

 クライアントにご馳走されてお別れするとき、感謝の意味を込めて、相手が見えなくなるまで見送るのである。

 なんだ、そんなの当たり前だって? そうか、それじゃあ、今度は地下鉄のホームまでお送りすることにしよう。

 えっ? そういうことじゃないって? そうか、ならば、ご自宅までお送りしよう!

 だめだこりゃ。(笑)

開発の鉄人”ことシステム・インテグレーション 代表取締役の多喜義彦氏は、これまでに3000件の開発テーマの支援に携わり、現在も40社以上の技術顧問などを務めている(システム・インテグレーションの詳細はこちら)。「リアル開発会議」では、多喜氏を指南役に、オープンイノベーション型の新事業開発プロジェクトを開始する(詳細はこちら)。