7月の宇宙ビジネス通信をお届けします。7月は従来にはなかった新しいコンセプトのロケットや衛星についてのニュースが多く報じられました。その中から以下の5本をピックアップしました。

1位:「地上からのマイクロ波でロケットを打ち上げる」

 7月17日、米国ベンチャー企業Escape Dynamics社は、まったく新しい概念を持つロケットの開発計画を発表しました。地上に整備された多数のパラボラアンテナからマイクロ波をロケットに向け照射することで推力を発生させるというものです(発表資料)。ロケットの胴体部分に熱交換器が設置されており、照射されたマイクロ波を熱エネルギーへと変換し、その熱エネルギーを燃料である水素に作用させて推力を得ます。従来のロケットは、複数のエンジンを分離して機体を軽くすることで上昇してきますが、このロケットでは分離機構を持ちません。

 Escape Dynamics社のロケットは、同社による3つの点で優れているといいます。まず、燃料の総重量に対する割合を少なくできること。従来型では総重量の約90%が燃料でしたが、この方式ですと酸化剤の搭載が不要なため72%にできるといいます。つまり、より多くのペイロードを搭載できます。

 第2に安全性が高いことです。燃料とともに酸化剤を搭載する従来型のロケットでは、爆発の危険性や燃焼の不安定性が払拭できず、打上げの成功率が100%を達成していないという問題があります。本方式では、酸化剤を搭載しないため、爆発の危険性はありません。燃料である水素は、自動車、エネファーム等の燃料電池などに使われている比較的扱いやすい燃料で、打上げ成功率を従来のロケットよりも高められることが期待できます。

 最後が低コストである点です。この方式は熱交換器などを用いているためなるため、非常に単純な構造で済みます。また、ペイロード分離後、飛行体として帰還するよう設計されています。打上げ中にエンジン分離(廃棄)の概念がないので、完全再利用が可能です。帰還時の大気圏突入時に熱的損傷を受けた機体の耐熱タイルなどの交換など、改修については従来のロケットに比べてはるか低コスト、短期スケジュールです。現在、米ULA社、フランスAirbus社、米Space X社は、打上げ後の第1段エンジンをヘリコプタによる回収、滑空による回収、垂直着陸制御による帰還など様々なアイデアを出してエンジンの回収、再利用によってコスト削減を競っていますが、Escape Dynamics社の方式ならペイロード以外は完全再利用するのでコスト競争力があります。

 このプロジェクトが成功すれば、宇宙業界に大きなインパクトを与えることが確実です。打上げコストが大幅に低減されますので、ペイロードの製造コストもそれに応じて低減していくことが予想されます。ペイロードのコストが下がると宇宙ビジネスに対する参入障壁が下がり、様々な産業から新しいビジネスが創出されることが期待されます。

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Escape Dynamics社のまったく新しい概念のロケットシステム
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