日本の景気動向を見る指標としてよく日銀短観が取り上げられますが、実際にビジネスを行っている立場からみると、あまり直接的でなく、かつ四半期ごとなので、データが発表されるころには、市場の状況はかなり変わっていて、実用的ではありません。特に民生用エレクトロニクス業界となると、かなり実情からずれているという現実があります。

 その点、経済産業省の生産動態統計は、カテゴリーがかなり細かく分類されていて、毎月の出荷額と出荷数量とが一緒に出ますので、業界の動向をみる上でそれなりに価値があるといえます。ただし、全ての数値は日本国内メーカーによるもので、世界的な動きとなると、ほとんど無力です。最近日本メーカーの国際市場での競争力は著しく低下しており、日本での国内出荷動向を追っても、世界の動きは分かりません。

 私は、世界の民生用エレクトロニクス市場の動きを把握するために、台湾の業界指標を多く使っています。何といっても、台湾は世界の民生用電子機器の生産基地といってもよいほど、主要エレクトロニクス製品が台湾国内で、もしくは海外の台湾系メーカーの製造拠点で、生産されています。世界のパーソナル・コンピュータの90%以上、ゲーム機のほぼ100%、タブレット端末の大部分、スマートフォンのかなりの部分が、台湾メーカーによるものです。

 米Apple社の製品は全てが台湾か、台湾系EMSメーカーの海外工場で組み立てられています。中国の新しい機器メーカーが自社では効率よく生産することができなかったので、台湾のEMSメーカーに生産を委託したところ、台湾のEMSメーカーは自社の中国工場で組み立てを行いきちんと利益を出したという、笑えないエピソードが伝えられています。

 そのような状況ですから、台湾でエレクトロニクスメーカーの部材調達状況を見ていれば、世界のマーケットの動きをかなり正確に推定することができます。私は、米国のエレクトロニクス市場のインデックスも毎月チェックしていますが、今となっては、地方のマイナーな市場動向という感じをまぬがれません。幸いなことに、台湾上場企業は月ごとの出荷額を速やかに公表することが義務付けられていますので、それなりに注意していれば、直近の出荷データを得ることができます。