低侵襲医療に用いられる現状の内視鏡やカテーテルは、サイズと形状の制約から操作性や機能、精度に限界があります。一方、体表に装着するヘルスケア(健康管理)機器はより小さく、薄く、軽くすることが望ましく、その一方で実現できる機能や精度には限界があります。

 こうした課題は、MEMS(微小電気機械システム)をはじめとする微細加工技術を用いることで解決が期待でき、体内で精密な検査治療を行うための今までに無い、高機能な低侵襲医療機器や、新たな測定項目を提供できるウェアラブルなヘルスケア機器の実現が可能になります。機器のコアとなる部品を量産性に優れた一括作製技術を用いて生産することで、製品コストを抑制でき、「使い捨て」化が可能です。

 本稿では、マイクロシステム技術の利用による低侵襲医療、ヘルスケアにおける高性能化・多機能化への取り組みについて、我々の研究室が開発を進めている「形状記憶合金アクチュエータを用いたディスポーザブル内視鏡」と「微小還流を用いた皮下組織液中の乳酸計測パッチ」を紹介します。

形状記憶合金アクチュエータで目指す
ディスポーザブル(使い捨て)内視鏡

 胃カメラなど消化管検査などに用いられる軟性内視鏡の屈曲や、組織をつかむ鉗子の動作、ロボット外科手術で用いられる内視鏡手術ツールには一般に、体外からのワイヤー牽引による駆動が用いられます。しかし、ツールを細く小さくするほどワイヤー牽引に伴いシャフトがたわみ、先端の精密な動作ができなくなり、さらに曲がりくねった先や急な角度で折れ曲がった先では自在な操作ができなくなります。比較的大きな変位と力が出せる形状記憶合金(SMA)を、筋肉のように縮むマイクロアクチュエータ(運動素子)として低侵襲医療ツールに組み込むことで、細く柔らかいシャフトの先でも精密な動作が可能になります。

 図1のような機構をカテーテルや内視鏡などの先端部に搭載し、屈曲、ねじれ回転や伸縮など様々な動きが実現できます。形状記憶合金アクチュエータを用いて多方向に屈曲できる機構の先端にCCDやCMOSなどの電子イメージャーを搭載した能動屈曲電子内視鏡は、従来のワイヤー牽引方式に比べシャフトの構造を単純化でき低コスト化できるので、使用後に洗浄滅菌して他の人に繰り返し使用される従来の軟性内視鏡と違い、ディスポーザブル(使い捨て)化が可能になります。特に救急の現場や災害現場など特殊な用途に役立つと期待されますが、シャフト内にスイッチング回路を分布させることで配線数を増やさずに多関節化や多機能化もでき、さらに様々なセンサを搭載し体内で様々な精密作業を可能にするヘビ型の多関節マイクロロボットとしての発展が期待されます。

図1 形状記憶合金(SMA)を用いた多方向能動屈曲電子内視鏡 (外径3.9mm)
(a) 形状記憶合金を用いた能動カテーテルの構成図
(b) 能動屈曲電子内視鏡を腸モデル内に挿入した様子
(c) 先端のイメージャーから腸モデルを撮像した様子
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