前回は、日本国内のオープンイノベーションのベストプラクティスとして東レと味の素の事例を紹介した。いずれも、グローバル展開する大企業の代表例だ。(前回の記事「会社がつぶれる危機感が、研究開発の姿を変えた」は、こちら)
今回は、オープンイノベーションが内需型産業でも大きな役割を果たすという事例を紹介しよう。エネルギー業界におけるオープンイノベーションの例として、大阪ガスの取り組みを取り上げる。内需型のガス会社がいち早くオープンイノベーションを実践するに至ったきっかけや具体的な取り組みにご注目いただきたい。
大阪ガスのケース:目標達成に向けたネットワークを構築
2008年当時、電力会社や電器メーカーは、IHクッキングヒーターやエコキュートなどの販売を急激に伸ばしていた。「オール電化」という言葉がブランドとして定着しつつあったころでもある。しかしながら、大阪ガスの新事業は実用化が遅れ、結果として、ガス需要の伸びが鈍化していた。「その理由は、大阪ガスの研究開発の進め方にあった」と、大阪ガスでオープンイノベーション活動を推進する松本毅氏は指摘する。
当時のガス業界の研究開発の進め方は、特定のガス機器メーカーとガス会社が協力して製品を開発するという枠組みが一般的で、限られた関係での開発が大半を占めていた。「これでは到達できるレベルに限界がある。ガス業界こそイノベーションが必要」という発想に至ったことが、大阪ガスにおけるオープンイノベーションの原点であった。
2002年から、大阪ガスの一事業として、技術者向けMOT(management of technology:技術経営)教育プログラムを展開していた松本氏が、2008年9月に技術戦略部に異動したことから、大阪ガスのオープンイノベーションが始動した。同氏は、「内製よりはスピーディだが、M&A(企業の合併・買収)よりは投資リスクが低い戦略的提携であるオープンイノベーションこそ、日本企業が取り得る戦略だ」と、積極的に活動を進める。
大阪ガスは、オープンイノベーションの目的を、簡潔に以下の三つに集約している。
- (1)
- スピードアップ
- (2)
- 製品の性能アップ
- (3)
- 技術開発投資効率アップ
オープンイノベーションで上記の目的を達成するために、大阪ガスは社外技術探索のための複数のネットワークを構築した。中でも中小企業・大学との連携、そして海外の技術探索に関して特徴的な活動を続けているので、ここでその一部を紹介する。