「うまいやつというのは、どうも危険やな」

 現代を代表する日本刀の刀匠、河内國平さんは言います。弟子の時代にうまかった人が将来、大成するとは限らない。むしろ、その方が少ないのだそうです。

「河内、仕事って下手がいいな。下手がいいや」

 親方が亡くなったとき、野村万蔵さん(和泉流能楽狂言方)に語りかけられた、この言葉が河内さんの心に残っています。

「うまい人というのは、あまり努力せえへんのかもな。もしかしたら、一生懸命やっていても、何かが漏れてしまうのかもしれん」

 河内さん自身、左利きだったが故に内弟子の時代に相当に苦労したようです。職人仕事は右利きを基準にすべて考えられているから。まず左利きを右利きにすることから始めた河内さんは、内弟子の中でも一番下手だったと振り返ります。

 その河内さんは、70歳を超えて刀剣界で最高の栄誉とされる「正宗賞」を2014年に受賞しました。太刀・刀の部でこの賞が出されたのは18年振りのこと。鎌倉時代の古刀に多く見られる「乱れ映り」と呼ばれる地紋を数百年ぶりに再現したことが受賞の大きな理由でした。

 詳細については、日経テクノロジーオンラインの「技術経営」サイトで6月23日~7月23日のアクセスランキング1位だった「武器としての日本刀・本来の美、その先に高みがあった」に譲るとして、「下手がええな」という名匠の言葉には深みがあります。