華麗なる技術者、NTT東日本関東病院 消化器内科の野中康一医師を紹介するコラムの第4回。筆者の加藤幹之氏との対談は、野中医師の最近の成果から始まり、医師としての心構えへと進んでいく。内視鏡で成果を上げ続ける医師は、「自分のゴールとは何か」を自問自答しながら、世界一の医療の実現に挑み続けている。

加藤 埼玉医科大学に移ってから内視鏡を始めたとのことですが、すぐに使えるようになるものなんですか。

野中 内視鏡を使い始めた当時は、1カ月に1日くらいしか休まずに新しい手術や処置の手法を開発していました。夜中の0時から動物実験室で豚を観察したり。

加藤 豚の内蔵を内視鏡で見るんですか。

野中 康一(のなか こういち)氏。NTT東日本関東病院 消化器内科 医師(写真:加藤 康)
野中 康一(のなか こういち)氏。1976年熊本生まれ。NTT東日本関東病院 消化器内科 医師。医学博士。2002年3月に島根医科大学医学部を卒業後、熊本大学医学部付属病院 第一内科(消化器内科)入局。2007年10月に埼玉医科大学国際医療センター 消化器内科 助教。2010年7月に熊本大学医学部附属病院 消化器内科に戻り、その後、再び埼玉医科大学国際医療センターを経て、2013年4月から現職。(写真:加藤 康)
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野中 そうです。最初から人間にはできないですからね。豚さんには、申し訳ないけれども。研究室にいる豚に麻酔をして挿管します。その豚さんたちのおかげで、新しい手法の開発ができるわけです。

加藤 なるほど。だいぶ分かってきました。内視鏡は、片手で操作するんですよね。

野中 そうです。片手で上下左右のアングルと、顕微鏡の拡大の調整をやります。

加藤 患部を切るのはもう片方の手で?

野中 いや、カットするのも操作する方の手です。普通の外科医は、左手で患部を持って右手で切れるじゃないですか。内視鏡医は、すべてを左手で操作します。よく片手で包丁を持って大根を桂剥きするくらい難しいと言われます。

加藤 右利きの人は、右手でやりそうに思うんですけど。

野中 そう思うんですけど、逆なんです。理由は分からないんですが、左手で操作するように作ってありますね。

 内視鏡の先端に2~3mmの穴が開いていて、手元からそこに針金状のナイフ(電気メス)を出していきます。だから、1m何十cm先にある小さな穴からナイフを3mmくらい出して、1mm単位の患部を切るということです。通電させるスイッチは足で踏んで操作します。

加藤 私の手術のときには「2mmの壁から1mmの厚さでポリープを剥いだ」とおっしゃってましたね。

野中 そうですね。2~3mmの皮を半分の厚さに剥ぎ取るというイメージです。場合によっては、腸の外側にあるほかの臓器が動いている様子が見えることがあります。ナイフの先端で突き破らないように、患者さんの呼吸などにタイミングを合わせながら、1mm単位の厚さの世界で少しずつ、少しずつ削ぎ取っていくんです。昔は2~3cmの範囲のものしか取れなかったといいますが、今は10cmくらいの範囲を剥ぎ取れるようになっています。

加藤 腸の壁って、襞になっているじゃないですか。普通にやったら壁を破っちゃいそうですね。