前回から引き続き、NTT東日本関東病院で消化器内科に務める野中康一医師を紹介する。内視鏡手術のゴッドハンドの1人である。特に内視鏡診断では、世界的に優れた成果を上げ続けている医師だ。

野中康一氏。NTT東日本関東病院 消化器内科 医師(写真:加藤 康)
野中康一氏。NTT東日本関東病院 消化器内科 医師(写真:加藤 康)
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 野中氏との出会いのキッカケは、私の手術の担当医師だったということを前回書いた。失礼ながら入院中に野中氏を観察し、興味があって患者という立場を忘れて我慢できずに聞いてみたことがある。

「なぜ、医師を志したんですか」

 こう尋ねてみたくなるほどに、「いかにも、お医者さん」という医師像とは違っていた。コミュニケーション能力が高く、その存在が周囲を明るく、楽しくさせるのだ。

 「なぜ、医者の道を選んだのか」という問いに対して、野中氏の回答はユニークだった。高校時代には当初、弁護士になりたいと思っていたという。しかし、野中青年は、あるときにふとこう疑問を感じた。「弁護士は、犯罪を犯した悪い人の刑を軽くするような職業だ」と。一応、法律を勉強した私からすると、「だから法律は面白い」という気もするが、これは個人の趣味の違いであろう。

 高校の途中で理系に切り替えて、医学部を受験するが1年目の合格はかなわなかった。パチンコや麻雀に明け暮れ、卒業も危ぶまれたという高校生活のツケが回ってきた形である。

 浪人生活では、生まれ変わったように勉強した。パチンコもマージャンもやめて1日に15時間を勉強に当てた。1年後には、かなり成績も上がり、医学部の合格は間違いなしと言われるまでになったという。

 ところが、入試直前に息切れしたのか、センター試験の数学で大失敗する。この時点では、医学部への道をほとんど閉ざされてしまった。そこで、数学の得点配分が少ない医学部を探し、島根医科大学(現在の島根大学医学部)を選び、見事合格となったのである。

 「なぜ消化器内科を選んだか」が次の疑問だった。ここでも野中氏が語る理由は面白い。

 医学部の5年生になって病院実習が始まると、消化器内科の木下芳一教授に出会った。木下教授は、関西出身の人で、とにかく講義の話が面白かったのだという。それが気に入って、野中青年は消化器内科を選んだ。医学部の講義で漫談というのはちょっと想像しにくいが、木下教授は人の笑いを取るのがうまいそうだ。