最近の私の仕事の関係で、フレキシブルエレクトロニクスやプリンタブルエレクトロニクスに関係するセミナーや研究会などに出席することが多いのですが、そこで必ず言及されるのがRTR(ロール・ツー・ロール)生産システムです。そこで感じるのが、RTRシステムに対する大いなる誤解です。RTRプロセスに対する期待値と実情の間には、あまりにも大きなギャップがあります。以前にも何度か説明したことがありますが、ここで改めて実情をご紹介しておきたいと思います。

 多くの方々が抱いているRTRシステムのイメージは、一方からロール状の材料が送り込まれると、ラインの反対側から製品がどんどん出てくる、というようなものです。しかしながら、私自身このようなRTRラインが安定して製品を製造している例は見たことがありません。新たに自動RTRラインを構築したものの、トラブルだらけで、まともに稼働していない例はたくさんあります。最初にフレキシブルデバイスと加工プロセスのアイデアがあれば、後は機械メーカーが、しかるべきRTR製造ラインを作ってくれる、というほど安直なものではないのです。

理想的なロール・ツー・ロール工程のイメージ
理想的なロール・ツー・ロール工程のイメージ
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 RTR生産システムは決して新しいアイデアではありません。日本のフレキシブル基板メーカーの生産現場では、既に30年以上の実績があります。ただ、それは1日でできたものではなく、多くの試行錯誤、設備の改造の積み重ねの上に構築されたものです。しかも、RTR設備自体の他に、これを運用するための多くのノウハウがあって、ようやく安定した生産が得られるようなったのです。それでも、RTRシステムが導入できたのは、前工程だけで、手がかかる後工程は依然として人件費の安い東南アジアや中国で、人海戦術でこなしているのが実情です。

 誤解のひとつは、RTRラインでは一旦プロセス条件が定まれば、後は安定した生産性が得られる、というものです。残念ながら、フレキシブルな素材は、硬い材料に比べて寸法安定性が悪く、幅方向、長手方向で物理物性が違っているということは常識です。しかも、メーカーの品質管理が悪いと、生産ロットによって、物性がばらつくということもよくあることです。素材メーカーはこのような事実をあまり認めたがりませんが、厳然とした事実です。加工メーカーとしては、そのような事実を了解した上で、RTRシステムを設計、構築しなければなりません。