最近、産業立地や企業誘致の担当者と話をする機会が多い。北は東北から南は九州まで、地域産業の活性化のために、情報収集や意見交換に奔走している人達だ。

 そんな時、筆者はしばしば複雑な思いにとらえられる。担当者に飛びついてもらえそうな格好のネタを提供できないことが多いばかりか、半導体・電機産業のネガティブな現状を説明せざるを得ないからだ。

 半導体工場を誘致したい、電子機器工場を建ててほしい、という当事者の強い思いは理解できる。だが、新工場を国内につくろうとしている日本の半導体・電機メーカーは非常に少ない。特に半導体業界では、「稼働中の工場をいつ閉じるか」という案件の方がはるかに多いのが実情だ。

 「日本には、売りに出されている300mmラインがあるそうですね」――。少し前に、ある外資系半導体メーカーからこんな問い合わせを受けた。最先端プロセスに対応していなくてもよいからオペレーター込みで買収できそうな300mmラインを探したところ、日本にしか候補がなかった、という。

 売りたくても買い手がつかず、やむを得ず閉鎖に追い込まれる。そんな半導体工場が、日本全国に存在する。そして工場のサイズにもよるが、閉鎖ともなれば1000人規模の従業員が職を失う。地域経済への影響は大きく、「閉鎖しないでくれ」という陳情を耳にすることはしばしばだ。電子機器の工場も似た状況にある。

 1米ドル=80円を割る超円高が続いていたころ、各社は海外への生産シフトを急いだ。当時、国内工場の稼働と雇用を守る余裕は各社ともなかった。昨今は1米ドル=120円台に戻ったため、生産の一部を国内に回帰させる例もあるが、新工場を建てるケースは稀だ。こうした状況下で工場誘致に関する相談を持ちかけられるので、役に立ちたくてもそれができずにいるのである。