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 『新医療立国論』(大村昭人編著、薬事日報社)は同系のシリーズ本としては4冊目であり、2015年5月末に発刊された。これらのシリーズ全般に流れる基本的論理を継承しつつ、ごく最近の医療機器環境の動向などの記述には、いくつかの注目点が存在する。

継続的な主題に現実味が加わる

 編著者の大村昭人氏(帝京大学医学部名誉教授・ISO/TC121およびTC/157国内委員長兼務)は、30年近く国際規格関連事業に尽力し、このたび前者のISO/TC121/SC3国際委員長にも就任した。麻酔医としての重責の傍ら、医療機器の開発・標準規格制定・規制面での造詣が深い。

 これまでにも「医療立国」をキーワードに、産業としての医療・介護機器の発展が我が国の経済振興に欠かせない重要課題、という医療経済論を展開している。

 本書も、この基本的な主張がベースにあって、その上で最近の動向とその実例が豊富に加えられているのが特徴である。しかも、我が国の実情のみにとどまらず、欧米や中国などを含めた医療情報、それから派生する医療機器産業の展開という構図がとられている。

 我が国の現実を直視した「ものづくり企業と新しい薬機法(医薬品医療機器等法)の関連」が業界関係者の興味だが、それ以上に欧米に劣るといわれる日本企業の果たすべき課題への解決手順や示唆もある。

 論点は、医療・福祉などの分野での産業展開について、日本の高い技術力が実際の商品として生かされにくい環境を問題点として提示されていることだ。とくに、医薬品と医療機器の違いから生ずる同一法律での縛りが産業発展への阻害となり、それゆえに日本国の経済への多大な影響が懸念されるとの指摘が光る。

 パルスオキシメータをはじめとする内外での医療機器開発にオピニオンリーダーとして活躍中の宮坂勝之氏(聖路加国際病院・周術期センター長)は、Amazonのサイト上で「医療機器と医薬品の果たす役割の違いを明瞭に解説」との論評を展開している。本書の論旨を的確に、しかも簡易な表現で評価している点にもろ手をあげて賛同したい。