エーピーエスリサーチの若林一民氏
エーピーエスリサーチの若林一民氏
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──どうして、そんなことになっているのでしょうか。

若林氏:接着剤を「副資材」と見ているからでしょう。多くの技術者は接着剤をメインの資材とは捉えていない。接着剤を使わない日本メーカーはほとんどないのに。接着剤メーカーは別として、実は、接着剤を専門とする技術者がいる日本のユーザーは皆無に等しいのです。


──ということは、接着剤に関するトラブルが多く発生しているのではありませんか。接着剤のユーザーが抱えるトラブルとして、今、目立つものを教えてください。

若林氏:実は、何がトラブルかすら分からないユーザーが多いのです。それだけ接着剤を知らない、ということなのでしょう。最近、私がよく受ける相談は、「接着剤を使って試験結果も良好です。でも、素人でも分かるように接着のメカニズムを理論的に説明してください」というものです。平均的な日本のユーザーの接着剤に関する知識や技術の水準は、「素人でも分かるように」という言葉が象徴していると思います。


──接着剤は接着する素材によって使えるものが違います。選択ミスのトラブルはありませんか。

若林氏:ユーザーは接着剤のメーカーと相談する場合が多いので、接着剤の選択ミスは少ないと思います。しかし、接着剤のトラブルで厄介なのは、接着剤自体が悪くてクレームになることはほとんどないことです。例えば、同じ接着剤を使っても、夏は問題ないのに冬に問題が生じるといったことが多々あります。たとえ空調が効いた作業環境であっても、夏と冬では例えば接着剤を塗布したときの「濡れ」に差が出るなどといった問題が発生します。

 また、結構多いのが、接着剤を選定したり、接着剤メーカーに選定してもらったりするときに実用条件を見逃しているユーザーがいることです。実用条件とは、使用環境に十分耐える製品を造る際に、使用環境を試験方法に置き換えるための条件のこと。製品に必要な耐久性や耐熱性、耐候性などを十分に把握していないことから、適切な仕様の接着剤を選べずにトラブルを招くケースが多いのです。

 例えば、接着強度は確認したものの、負荷が持続的にかかる耐クリープ性の確認を忘れてしまった。結果、何年もたってから接着が剥がれて問題になる──。製品の接着部にどのような応力がかかるかを分かっておらず、実用条件に織り込めなかったことが原因です。