エーピーエスリサーチの若林一民氏
エーピーエスリサーチの若林一民氏
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──軽量化によって燃費向上を狙うことは、現在自動車を開発する上での最重要課題となっています。軽量化というと、どうしても軽い材料にばかり目を奪われてしまいます。そのため、車体を組み立てるには、しかるべき性能の接着剤が必要であるという当然のことを忘れてしまいがちです。軽量化は自動車に限られているのでしょうか。

若林氏:いいえ。携帯機器などでも、やはり少しでも軽くしたいというニーズがあります。ここでも異種材料の接合(つなぎあわせること)が求められており、特に、金属と樹脂を接合する動きが自動車以上に見られます。スマートフォンでは、接着剤を使わずに金属と樹脂を直接接合させて造る筐体が既に多く実用化されています。

 しかし、電気・電子部品分野では軽量化以上に喫緊の課題があります。環境対応〔RoHS(Restriction of Hazardous)規則、WEEE(EU Directive on Waste from Electrical and Electronic Equipment)指令〕です。鉛はんだを規制する世界の動きから、「鉛はんだ代替導電性接着剤」へのニーズが急速に増しています。実装試験を標準化してISO(国際標準化機構)の規格にする作業が進み、2014年5月にISO規格(ISO16525-1~9)として正式に成立しているからです。つまり、近い将来に、鉛はんだ代替導電性接着剤が世界の標準になる可能性が高いのです。

 実は、鉛はんだ代替導電性接着剤の実装試験方法は日本が提案してISO規格になったものです。日本が主導して規格化したのですから、実装でも日本がリーダーになるべきです。早急に、いかにビジネスに生かすかを考えるべきでしょう。

 今、電気・電子部品分野と説明しましたが、自動車分野も無縁ではありません。自動車は電気・電子化を加速させており、電装部品をたくさん使用しているからです。これらの電装部品にも、鉛はんだ代替導電性接着剤の使用が求められるのは必至です。


──自動車と電気・電子部品分野以外に、接着剤に関する動きはありませんか。

若林氏:鉄道車両関係で今後、安全性のニーズが高まることでしょう。これまで日本の鉄道車両は、技術およびそのマネージメントにおいて優位性を世界に示してきました。ところが、2015年6月末に新幹線の中で乗客が火災事件を起こし、思わぬところで弱みが露呈しました。今後、いろいろな安全対策が講じられる中で、技術面では火災を起こしにくい設計を求める声が上がってくることでしょう。すると、内装材料と共に、接着剤およびシーリング材の難燃化が必要になります。

 生産技術では、短時間接着のニーズが高まっています。接着剤を素早く硬化させ、生産ラインのスピードを上げて生産性を高めるのです。これにより、製造コストの低減を狙うのです。

 建築・土木分野では、外壁材であるタイル施工用の弾性接着剤の需要が増えることでしょう。タイルの剥がれ落ちを防ぐものです。変成シリコーンとエポキシ樹脂のハイブリッド形接着剤の開発が進んでいます。現在、接着剤と施工方法を含めてISO規格としての審査を受けている段階で、しばらくしたら試験方法についてISO規格として成立する可能性が高いのです。

 建築・土木分野は、いわゆる「アベノミクス」の恩恵を受けており、2020年に東京オリンピックを迎えるまでは建設ラッシュが続いて接着剤の需要が増えるとみる接着剤メーカーが多い。半面、2020年以降のビジネスを心配する声も大きい。そこで接着剤メーカーが注目するのがメンテナンスです。2020年以降を目指して、メンテナンス工法とそれを支える接着剤およびシーリング材の開発が進むことでしょう。


──接着剤の重要性はますます増しているのですね。もともと製品を組み立てる上で接着剤は欠かせないと言っても過言ではありません。日本メーカー(ユーザー側)の技術者は接着剤をうまく使いこなしているのでしょうか。

若林氏:残念ながら、そうとは言えません。もっと言えば、接着剤についてあまり知らない技術者が多いというのが実態です。基礎知識が欠けているケースすら少なくありません。