ドイツの「Industry 4.0」(インダストリー4.0)に対して、日本は国や業界全体としての取り組みで遅れを取っているといわれます。しかし、2015年5月に政府主導の「ロボット革命イニシアティブ協議会」が設立、同年6月にはスマート工場の“リファレンスモデル”構築を目指す団体「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」が立ち上がるなど、連携の動きが見えてくるようになってきました。

 個人的には、連携という言葉が持つ調和的な響きとは裏腹に、今後はスマート工場の主役を巡る戦いが激しくなるのではないかと思っています。スマート工場の実現に向けて「FAとITの融合」というようなことがいわれていますが、各社が互いに既存の事業領域を尊重し合うような“お行儀の良い”活動で済むはずがありません。どの企業も、自社の事業領域を広げるチャンスと見ているはずです。

 実際、先般開催されたスマート工場に関する「FACTORY 2015 Summer」(主催:日経BP社)の「製造業の新潮流と日本」と題されたパネルディスカッションで、富士通産業・流通営業グループ プリンシパル・コンサルタントの熊谷博之氏は次のような見解を示しました。「(事業領域の)境目がなくなることで、業界全体が一種の“戦国時代”になるのではないか」(関連記事)。私には、この熊谷氏の言葉が強く印象に残っています。

 もちろん、国や業界としてまとまらなければできないことはたくさんあるので、連携自体は大切です。その中でも、自社が優位に立つための切り札となる技術開発がますます重要になるでしょう。

 近年は、特にIT側の技術進歩が目覚ましいこともあり、IoTやビッグデータなど新たなコンセプトに基づく提案が次々と出てきています。これらは時に「バズワードにすぎない」「昔からあるコンセプトの焼き直し」などともいわれますが、しかし着実に現実の製造業に影響を及ぼしていると感じます。工場がつながることで実現できる世界も、おぼろげながら見えてきました。

 一方で、FA側の技術については、現実のモノを扱っているということもあって、進歩の速度はあまり変わっていない印象があります。リアルな世界の話なので仕方ない面もあるのですが、だからこそリアルな世界を大幅に変革する生産技術に大きな可能性が秘められていると思いますし、スマート工場の主役に躍り出るためにはそれらが不可欠になるでしょう。