今年3月、米国ボストンで開催されたスポーツとITのカンファレンスに豪華な顔ぶれがそろった。
米4大プロスポーツに加え、成長著しい米国サッカー協会(USSF)、全米テニス協会(USTA)、全米大学体育協会(NCAA)といったスポーツ関連組織のエグゼクティブがスピーカーとして登壇。メディア業界からはスポーツ専門チャンネルのESPN、IT業界からは米国のIBM社、Google社、Facebook社、Twitter社に加え、ドイツSAP社、スポーツブランドからは米Nike社、ドイツのAdidas社など、そうそうたる世界企業が議論に加わった。主催は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン経営大学院だ。
数多くのパネルセッションで登壇者が一様に話していたことは大きく二つ。「ITによって、スポーツビジネスは劇的に変わる」「新しい価値を創り出すことで、ビジネスを創出することができる」ということだ。
スポーツ先進国の米国で起こる変化は、必ず日本にも波及する。なぜなら、スポーツには、競技のルールや制度があり、それは世界共通でないと国際大会が成り立たないからだ。
「スポーツ×IT」という黒船は、近いうちに海を越えて日本に押し寄せてくることになる。2020年には東京オリンピック/パラリンピックというビッグイベントが待ち構え、今年10月には新たにスポーツ庁が設置される。スポーツを巡る政治的な器の準備が進みつつある。
そうした中、多くの日本企業では、「そもそもスポーツってビジネスなの?」「それって、どういうビジネスなの?」「スポーツと自社のビジネスはどんな関係が? チャンスはあるのか?」といった疑問形で語られることが多いのではないか。本稿では、その疑問について、少しヒントを提供していこう。
まず、「スポーツとはどんなビジネスなのか?」を、米国の事例で少しイメージをつかんでいただきたい。
米国は、製造業の地盤沈下で工場の閉鎖による失業者が都市に流入し、治安の悪化や地域経済の低迷が社会問題になっていた。地方の政府や地元企業は、新たな雇用を創出し、労働者層をサービス業にシフトしつつ、都市再生によって地域経済を復活させていく必要性に迫られていたのである。
実は、この再生シナリオで重要な役割を担ったのが、スポーツビジネスだった。